一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

深夜の告白

私的評価★★★★★★★☆☆☆

深夜の告白ポスター

 (1949日本)

 ガード下で鯨の臓物鍋を出すビタミン亭に入った復員服姿の新聞記者・森口茂也(池部良さん)は、サングラスをかけた店主の姿を見たとたん、店主が森口の亡くなった戦友の父で、とある事情で失踪した早川ではないかと声をかける。しかし店主はきっぱりと人違いであることを告げた。戦時下にある事件の嫌疑を受けて失踪し、すでに亡くなったものと思われていた航空機会社の社長・早川道平(小沢栄さん)が、実は生きていたことが静かな波紋を呼び、名士の家に嫁いだ娘の波多野峰子(三宅邦子さん)や、戦死した息子と駆け落ちしたナイトクラブのマダム・島崎七重(山根壽子さん)ら、家族の間に動揺が広がる……。


 BS日本映画専門チャンネルの〝蔵出し名画座〟で昨年10月に放送された映画です。〝蔵出し名画座〟は、未ソフト化の貴重な作品を、独自にリマスタリングして放送するプレミアムな番組です。
 本作は、戦後まだ4年目の作品で、モノクロ&4:3スタンダードサイズの画面、ところどころノイズも乗ってますが、おおむね良好な作品状態です。

 戦後まだ浅く、早川のアパートの部屋を見ても、まだまだ物資に恵まれているとは言えない時代であったと思われますが、むしろ物に恵まれていなくても人と人とのつながりは今より濃密で、今よりずっと心豊かな時代がやっと始まった、という時代だったのかもしれません。早川の部屋でバッタリ出会ってしまった峰子と七重の女同士の丁々発止のやりとりを始め、人々(特に七重)の苦悩する心情に引き込まれ、せつなくなってしまいます。ネット全盛期の今と違って、面倒くさい人間関係を面倒くさがらずに正面からぶつかり合うところが、清々しくさえ感じます。また、おせっかいを焼く、というのも最近は敬遠されがちなので、「昭和、良かったな」と感慨に浸ったりもします。

 なんとなく重苦しいストーリーではあるんですが、早川と同じアパートに住み、何かと早川の身の回りの世話を焼く松木キヨ子(月丘千秋さん)と森口の恋愛模様には和まされます。特に、♪ぴょんぴょんぴょんぴょん~のくだりは、椅子からズリッとコケそうなくらい衝撃を受けました^^; すばらしい!

 あと、キヨ子の父でチョイ悪な松木勘作(東野英治郎さん)が、けっこう狂言回し的な役として効いてて、東野さんがなんか憎めないオヤジを好演されてました。
 それから、七重の愛人の三枝勝年役の河津清三郎さんが、毎度のことながら、カッコいいダンディなオヤジを演じていました。
 ついでに、大東新聞のデスクに、髭のない若い頃の江川宇禮雄さんが出演されていて、驚きました。ウルトラQの〝一の谷博士〟でしか存じ上げないんですけどね。


※中川監督は、こちらの作品を撮っておられたんですね。
vgaia.hatenadiary.org


●監督:中川信夫 ●脚本:八木隆一郎 ●音楽:伊福部昭