一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

時をかける少女 (2006年)

私的評価★★★★★★★☆☆☆

時をかける少女 期間限定スペシャルプライス版 [Blu-ray]

 (2006日本)

 ちょっと過去に戻れるからって、やりたい放題。
 今まで、さんざんやってきたじゃないの。

 元気な17歳の少女・紺野真琴(声:仲 里依紗さん)は、秀才の功介(声:板倉光隆さん)と春に転向してきた千昭(声:石田卓也さん)という2人の男子の同級生を友人に楽しく暮らす毎日。あることをきっかけに真琴は、自分が時間を飛び越えられる能力〝タイムリープ〟を手に入れたことを知る。そして、その力をツイてない日常のささいな不満や欲望の解消に使い始めるようになった。突然おとずれたバラ色の日々。ところが、タイムリープできる回数には限度があった…。(WOWOWの番組内容から引用)


 『三尺魂 - 一応、邦画劇場』で、さんざんタイムリープを繰り返したあとに、またしてもタイムリープを繰り返す作品を見た、ワケです。

 今ごろ見てるのかって。ホントに見るチャンスがなかったのでした。
 なんかね、1983年の大林宣彦監督・原田知世さん主演のイメージが強すぎて、というか、まだ甘っちょろい学生時代に見たその映画の負のイメージをずぅ~っと引きずってて、以来、テレビドラマで幾度となくリメイクされても、なかなか見る気力が沸かなかったのですよ。なんか、このテーマは切なくて重すぎるんですよねぇ。

 ところが、見てみたら、なんか違う。筒井康隆さんの原作と違う。原作というより、むしろ原案ですか。
 と、思ってたら。何やら聞き覚えのある呼び名が!
 あ、あれ? 芳山さん(声:原沙知絵さん)? あの芳山さん? 真琴のおばさん役なの? てことは、続編的な? なんか知らんが、真琴は〝魔女おばさん〟って呼んでるし、「真琴ぐらいの年頃の少女には〝タイムリープ〟はよくあること」みたいなこと、しれっと言ってるし、謎めいてるけど、あの芳山さんで間違いなさそうですよね? でもって、冒頭のセリフ、真琴に向けて芳山さんが微笑みながら揶揄するシーン。その後、高校時代に好きになった人のことを真琴に話すと、あぁ、やっぱりあの芳山さん確定っぽいwww で、最後ダメ押し。あ、クレジット、芳山和子、間違いなかった。確定www
 原さんの落ち着いたしゃべり口調、絵柄とマッチしてて、良かったなぁ~。登場人物の中では、イチバン気に入ったかもwww


 ピアノメインのBGM、クラシカルなBGMがすごく効果的で良かったです。
 仲里依紗さん、実写で演技するときとしゃべり方違いますよね? すごいなぁ。うまいと思う。特にクライマックスでひたすら駆けるシーン、大熱演だったと思います。でも、あのハァハァに何を妄想してか、不快に思ったと書き込む方々が一定数いることを知り、驚きました。なんか、逆にそんな風にチラッとも思わなかった自分が鈍感すぎると見下されているようで、それこそ不快に感じました。いや、そんな風に聞こえる感性のほうが、どうかと思うけど、違ってる?
 石田卓也さんは、逆に実写で演技するときのまんまでしたね。役柄も似た感じのしか見てないから、そう思うのかもしれませんが、のどの奥でしゃくるようなしゃべり方の癖で、すぐ気づきましたwww
 素人声優だから聞き取りづらい、って評価は、仲さんへなのか、石田さんへなのか(あるいは、その他の方へなのか)知りませんが、ボクは完璧な活舌で演じる声優さんだけが出てくるアニメが、逆に型にはまりすぎてて馴染めないと思うほうなので、お二人の出演は良かったと思っています。

 この作品、前半の真琴のやりたい放題に眉をひそめてしまったんですが、後半の怒涛の展開は、「ちょっとその展開、ロジック合ってる?」って思うところもあったんですけど、それでも、「ストーリーの盛り上げ方、すげーうまい!」って感心しました。
 この手のテーマの作品の掟である〝別れ〟のシーンも、大林版のような胸が締め付けられるような重苦しさとは対照的に、なにやら爽やかで、未来への希望を持てるような後口が良かったと思います。
 真琴のキャラが典型的な〝実行力のある短絡思考の持ち主〟として描かれているせいか、前半のハチャメチャぶりと、後半のジェットコースター的な感情の起伏がコントラスト効いてて、最後に〝自分の気持ちに素直になった真琴〟が、すごく愛おしく思えて仕方なかったです。
 ただ、この辺も、前半の真琴の、鈍感とも思える短絡で雑な行動が気に入らなくて、作品に入り込めないタイプの方々には、単に自分本位な我がまま娘としか映らないのでしょうね。物分りの良い、しっかり者としか接する機会のない人生を送られてるのでしょうか? それとも、〝若気の至り〟をすっかり忘れて、今を生きておいでなのでしょうか? 十代の狭い世界観では、思慮の足りない言動はありがちだし、〝タイムリープ〟がどうしたって他人に影響を与えてしまうことに気を回せず、「悪い目を見ている人がいるワケがないし、いざとなったらリセットできる」と狭い視野でしか考えられない傲慢さを発揮してしまうのも、ありがちなんじゃないでしょうか。
 つくづく、映画でもテレビドラマでも、他人の創作への感想は、見た人自身を写す鏡だと思う。その人の性格のみならず、その作品を見たときの感情や境遇などが絡んで出てくるものであることは、間違いない。そういう意味で、この作品を見て、高目の評価を出せる今の自分は、そこそこ恵まれてるのかも知れない。なんてことを思ってしまいました。


 その他、雑感。
 美術の山本二三さん、本作でも背景画を担当されてたのかな? 〝二三雲(にぞうぐも)〟と呼ばれるリアルで雄大な雲の画像がたびたび大写しになって、印象的でした。
 2年前だったか、地元の美術館で作品展をされたとき、初日に来館されて、ワークショップで実際に雲の絵を描くところを拝見したことがあります。大勢のギャラリーが見守る中、緊張の色も見せず、見事な手さばき筆さばきで描かれた雲、ちょっとため息混じりに見とれてしまいました。展示作品には、この映画の象徴的なシーンである〝踏み切り〟の背景原画があり、坂道の反対側から見た〝踏み切り~坂道~雲の沸き立つ空〟が描かれていました。
 背景画の緻密さ、美しさに比して、原画が雑だなと思うところがありました。細田さんの特徴的な陰影をつけない肌の表現もあいまって、昭和のテレビアニメっぽいというか、悪く言えば劇場映画とは思えない、安っぽさを感じました。


●監督:細田守 ●脚本:奥寺佐渡子 ●美術:山本二三 ●原作:筒井康隆(小説『時をかける少女』/角川文庫刊)