一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

透明人間

私的評価★★★★★★★☆☆☆

透明人間 [東宝DVD名作セレクション]

 (1954日本)

 戦時中に作られ、サイパンで玉砕した透明特攻隊最後の一人である南条(河津清三郎さん)は透明人間であることを隠し、ピエロのサンドイッチマンとして銀座を流して暮らしていた。その年のクリスマス、歌の好きな盲目の少女・まり(近藤圭子さん)にオルゴールをプレゼントすることを、彼は約束していた。そんな時、少女の祖父(藤原釜足さん)が透明人間を騙るギャング団に殺される。
 密かに心を通い合わせるナイトクラブのシンガー美千代(三條美紀さん)と、透明人間事件を追う新聞記者・小松(土屋嘉男さん)に自らの秘密を明かした南条は、己の正義を証明する為、たった一人で凶悪なギャング団に立ち向かうことを決意する。それぞれの想いが交錯しながら、南条の孤独な闘いの先に待っていたものは…!(DVDパッケージから引用)


 
 後の東宝特撮変身人間シリーズの原点と言える、円谷英二さん特撮指導によるモノクロ映画の傑作です。
 変身人間シリーズ第1弾の『美女と液体人間 - 一応、邦画劇場』は、けっこうストーリーの舞台や設定に似通ったところがあり、本作のオマージュではないかと言われているとか。
 透明人間の存在にリアルさを与える、光学合成を中心とした円谷英二さんの特撮がすばらしいです。


 70分ほどの短い尺の作品ですが、冒頭でいきなり車に飛び込んで透明人間が自殺するという奇抜な発想のプロローグが秀逸で、一気に物語にぐいぐい引き込まれてしまいます。ストーリー自体は、けっこう陳腐かも知れませんが、出演者の皆さんの演技のうまさが光り、テンポの良い展開もあいまって、今見ても、なかなか面白いドラマになっていると思います。

 戦後からまだ10年も経たない時代に、さまざまな事情を抱えて貧しくも慎ましく生きる市井の人々。その中で息を潜めるように生き続ける〝透明人間〟は、普通の人間ではない自分のことを〝片輪者〟という言い方で卑しめます(現代は〝不適切な表現〟になるようです)。そして、素性を明かされた美千代も、自分が自由を奪われた〝片輪者〟だと言って、南条を慰めます。
 真っ当に生きたいと願いながら、自分の思う真っ当な人生を歩めない人々。いつの時代も、息苦しさを覚えながら暮らす人たちがいることの理不尽さに、どうすることもできず、いたたまれない哀しさを覚えます。

 そして、終劇は、とても切ない。
 せめて、南条が守ろうとした、美千代とまりの二人には、幸あらんことを願うばかり。

 三條美紀さんは、『犬神家の一族 - 一応、邦画劇場』の犬神佐兵衛翁の次女・竹子の役の印象が強いんですが、若い頃はさぞ美人だったろうと思わせる方で、本作を見てそのとおりのお美しい方だと確認した次第。


●監督:小田基義 ●撮影、特技指導:円谷英二

※1958年 東宝特撮変身人間シリーズ 第1弾 液体人間
vgaia.hatenadiary.org
※1960年 東宝特撮変身人間シリーズ 第2弾 電送人間
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※1960年 東宝特撮変身人間シリーズ 第3弾 ガス人間
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※1963年、人間、キノコに変化する。
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