一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ペンギン・ハイウェイ

私的評価★★★★★★★★★★

ペンギン・ハイウェイ Blu-ray スタンダードエディション

 (2018日本)

 誰にでも、忘れられない夏がある。

 小学校四年生のアオヤマ君(声:北 香那さん)は、一日一日、世界について学び、学んだことをノートに記録している男の子。利口な上、毎日努力を怠らず勉強するので、「きっと将来は偉い人間になるだろう」と自分でも思っている。そんなアオヤマ君にとって、何より興味深いのは、通っている歯科医院の“お姉さん"(声:蒼井 優さん)。気さくで胸が大きくて、自由奔放でどこかミステリアス。アオヤマ君は、日々、お姉さんをめぐる研究も真面目に続けていた。

 夏休みを翌日に控えたある日、アオヤマ君の住む郊外の街にペンギンが出現する。街の人たちが騒然とする中、海のない住宅地に突如現れ、そして消えたペンギンたちは、いったいどこから来てどこへ行ったのか……。ペンギンへの謎を解くべく【ペンギン・ハイウェイ】の研究をはじめたアオヤマ君は、お姉さんがふいに投げたコーラの缶がペンギンに変身するのを目撃する。ポカンとするアオヤマ君に、笑顔のお姉さんが言った。

「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」

 一方、アオヤマ君と研究仲間のウチダ君(声:釘宮理恵さん)は、クラスメイトのハマモトさん(声:潘めぐみさん)から森の奥にある草原に浮かんだ透明の大きな球体の存在を教えられる。ガキ大将のスズキ君(声:福井美樹さん)たちに邪魔をされながらも、ペンギンと同時にその球体“海"の研究も進めていくアオヤマ君たち。やがてアオヤマ君は、“海"とペンギン、そしてお姉さんには何かつながりがあるのではないかと考えはじめる。

 そんな折、お姉さんの体調に異変が起こり、同時に街は異常現象に見舞われる。街中に避難勧告が発令される中、アオヤマ君はある【一つの仮説】を持って走り出す!

 果たして、お姉さんとペンギン、“海"の謎は解けるのか――!?
(『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト「STORY」から引用)

penguin-highway.com


 絵のとってもきれいなアニメです。
 萌え系じゃないキャラが、個人的には落ち着いて観てられるので、好きですね。

 舞台となる郊外の〝海のない街〟のデザインがステキ。こんな町なら暮らしてみたいと思いましたが、もしかしてモデルは生駒市ですか? 先輩後輩が一時期住んでたので、2度ばかり訪れたことありましたが、こんな街だったのかしら。

 登場する子どもたちが、活き活きとしてて、素晴らしいです。こんな夏休み、過ごしたかったな。アオヤマ君以外は、ステレオタイプなキャラ設定かもしれないけど、過不足ない人物配置だと思います。

 お姉さんの声、賛否両論あって、オモシロいですね。オバさんの声にしか聞こえないって、失礼だなあwww それって、アニメのキャラの声質は、こういう人物にはこういう声質、みたいな固定観念があるワケじゃないですよね? 蒼井優さんに限らず、低い声質の女性に対して、ホント、失礼だから。ボクは、お姉さんのキャラが際立ってて、好ましく思ったけどなぁ。うん。少なくとも、違和感はまったく感じなかったよ。

 あ、お姉さんの〝おっぱい〟ネタ、気になりますかね?
 未だ性に目覚める前の少年時代に、フツーに抱く異性への説明できない感情、とでも言えばイイのか。『小学四年生の男児である自分が、なぜオトナのお姉さんのおっきなおっぱいに惹かれてしまうのか』、純粋にアオヤマ君は、そこが不思議でたまらず、お姉さんの研究をしていると思うのです。
 アオヤマ君は、〝異性を好きになること〟にまだ理解がなく、スズキ君がハマモトさんのことを好きなことが分ってないように、自分自身がお姉さんのことを、どういう風に好きなのか、まだ分っていないのだと思うのです。
 なので、ボクはまったく不潔なカンジやエッチなカンジは持たないし、サラッと流しましたけど、気になる人は気になるんですかね。
 もちろん、製作者はオトナだから、セクハラまがいだとか、そういう見方もあるのかもしれませんが、子どもと一緒に観て、恥ずかしいと思えるような要素ではなかったと思いましたよ。


 さて、この映画を知るキッカケは、当時通ってた歯医者さんの待合室に貼ってあったポスターでした。〝日本歯科医師会協賛〟とかで、ポスターだけ見ても、何のこっちゃでしたが、メインキャラの〝お姉さん〟が歯科医院勤務だったことと、何かにつけて子ども(アオヤマ君)に歯を大切にし、歯磨きするよう勧める発言が繰り返し織り込まれているからだったんですね。
 そちらの先生、ボクが30歳になる前から長年お世話になった歯医者さんでしたが、後継者がいないとのことで、この映画が公開された年の末に廃業されました。腕のいい先生だったので、その後、納得の行く歯医者さんにめぐり会えず、ただ今、歯医者難民になっています^^;


 あだしごとはさておき。
 原作者の森見登美彦さんは、京都大学出身の農学修士ということですから、科学者的な考え方が身にしみておられる方だと思います。
 そんな森見さんが描かれた、小学四年生ながら、研究者然とした居ずまいのアオヤマ君は、子どもたちに〝科学する心〟の楽しさを体現して見せてくれているように思いました。
 
 アオヤマ君のお父さん(声:西島秀俊さん)も科学者・研究者なんでしょうか?
 アオヤマ君が机に向かう真正面の壁には、〝父の問題の解き方 三原則〟なるメモがピンで留めてあり、
  ■問題を分けて小さくする
  ■問題を見る角度を変える
  ■似ている問題を探す
と、記してあります。これを見返しながら、アオヤマ君は、お姉さんが与えた〝謎〟を、理詰めで解くことに挑みます。

 アオヤマ君が、プロジェクトごとに分けて書いているノートに、びっしりと書かれている図やグラフや仮説などが、たびたび画面に出てきます。ボクは子どものころから、思索にふけってあれこれ仮説を立てて実証することが好きなタイプだったので、ノートの中身が出てくるたびに、ドキドキわくわくしました。
 たぶん、こういう感覚を持ち合わせない方には、『この映画は小難しいワリに理屈っぽい解決がなく、見ている者を置き去りにしている独善的な映画だ』というような感想になるかもしれません。
 でも、理科や科学にあまり関心がない大人の方たちにこそ、科学的な見方や考え方がまだ身についていないお子さんたちに、ぜひ見せてあげてほしいと思う映画なのです。

 たとえば、ウチダ君の連れてきたペンギンが、エサを食べなくても何日も生き続けているのに、街を遠ざかる電車の中で急に調子が悪くなり、挙げ句に元の姿に戻ってしまったのは、何故なのか?
 ちゃんと見ていると、科学的な見方・考え方により、理詰めで解決できる〝謎〟もあります。

 一方で、日常と非日常の接点に現れた〝海〟が、いったいどういった存在なのかについては、適切な解が示されたとはいえませんでした。
 『完結した一話の映画なんだから、すべて納得のいく解決をしろよ』という考えもあるでしょうが、現実世界は、ほぼ人知では計り知れないことばかりです。
 知らないことばかりだからこそ、〝不思議に思ったことを探究する楽しさ〟があるのだと思うのです。

 アオヤマ君のお父さんが、アオヤマ君に示して見せた、『巾着袋に世界を入れることができるか?』というハナシ。お父さんは、『考えてみなさい』と、優しく言います。
 この映画を見たことをキッカケに、将来科学者になる子どもたちがいてもイイと思える、ステキなSFファンタジー。歯医者さんでポスター見たときに漠然と抱いたイメージを覆す、感動的な作品でした。


 最後に、ノーベル物理学賞を受賞された朝永先生が、1974年11月6日に京都市で子どもたちに向けて書かれた色紙の有名な言葉を。

 ふしぎだと思うこと
    これが科学の芽です

 よく観察してたしかめ
 そして考えること
    これが科学の茎です

 そうして最後になぞがとける
    これが科学の花です

         朝永振一郎


※これも森見登美彦さんの原作だったね。
vgaia.hatenadiary.org


●監督:石田祐康 ●脚本:上田誠ヨーロッパ企画) ●原作:森見登美彦(小説『ペンギン・ハイウェイ』/角川文庫刊)