散歩する霊柩車
私的評価★★★★★★★★★☆
(1964日本)
直木賞候補作家・樹下太郎の小説が原作の、ブラックユーモア溢れるスリラー。すべての元凶となる悪妻を快演する春川ますみら個性派が集結し、予測不能なミステリーを贅沢に彩る。
貧相な運転手の麻見(西村晃さん)は、豊満な身体を武器に実業家の北村(曽我廼家明蝶さん)や医師の山越(金子信夫さん)と密通する妻・すぎ江(春川ますみさん)の首をしめ、不貞が露見した妻の自殺を装い、霊柩車に乗り浮気相手を脅しに回るが、その裏に潜む計略を機に、欲望渦巻く事態が次々起こる。
(日本映画専門チャンネルのあらすじから引用)
BS日本映画専門チャンネル『蔵出し名画座』で鑑賞しました。
これも未ソフト化ですね。
ブラックユーモアとはいえ、サスペンス色が強い作品で、見応えがありました。
不貞の果てに妻が自殺したことにする、という時点で、すでにストーリーに火がついてしまってます。あとは、その火が次々と燃え広がって、消しても消してもどこかでくすぶり続けて火の手が上がり、マッチポンプのつもりが、最初に火をつけた夫婦も制御不能に陥ってしまうというカンジ。
色と欲に目の色変えて、本性を隠しながら絡んでくる男たち。騙し騙され、一筋縄ではいかないスリリングな展開が次から次へとグイグイ迫ってくる。
なかなか先が読めなくて、面白かったです。すばらしい脚本ですね。
中盤のホテルの密会から、死体を隠すために忍び込んだ病院のモルグまでのハラハラさせる展開、そしてその後の夫婦の諍いのくだりは、特に秀逸だと思いました。
また、墓場のシーンで、犬を連れた少年と目が合ってしまうくだり、心理的圧迫感すごかったです。
そして夫の顔つきが、どんどん何かに憑かれたような悪相になっていくのが、怖かった。
終盤は夫が運転する霊柩車が走るシーンで、『恐怖アンバランス劇場』シリーズを思い出させる、不条理な心理サスペンスが展開します。
その展開のブレイクは、CG無しの実写だと思うと、なかなか衝撃的な映像でした。
そして、カメラが実にカッコいい構図で、ブレイクした場面を映し出し、最後は、追いついたスポーツカーのアベックの、ずいぶん軽い調子だけど風刺の効いた会話で物語が閉じます。大きくため息……すごい!
夫婦を演じる西村晃さんと春川ますみさんの演技が、実に生々しくて凄まじい。昨今の映画では、なかなか見られないような迫力を感じました。
蛇足ですが、夫婦がアパートでサイレンの音を聞いて、救急車が来たのではと、慌てる場面があります。この映画の当時は、パトカー、消防車、救急車のサイレン音は、すべて〝ウー〟音で、パッと聞いただけでは判別が難しかったのです。ボクの記憶が正しければ、救急車が〝ピーポー〟音になったのは、1970年ごろ~72年ごろのことでした。