マエストロ
私的評価★★★★★★★★★☆
(2015日本)
解散した名門オーケストラの復活に現われた謎の指揮者。楽団員に対する彼の独特な指導がいつしか“奇跡”を起こす。松坂桃李、西田敏行ほか豪華キャスト共演の音楽ドラマ。
若きバイオリニスト、香坂(松坂桃李さん)の元に、解散した名門オーケストラ再結成の話が舞い込む。だが、練習場は廃工場で、集まったメンバーはアマチュアフルート奏者のあまね(miwaさん)のほかは、再就職も決まらない“負け組”の楽団員ばかり。音合わせをしてみたものの、とてもプロの演奏とはいえず、楽団員の中にも不安が広がっていく。そんな中、彼らの前に謎の指揮者・天道(西田敏行さん)が現われる。天道の自分勝手な指導に、楽団員たちは猛反発するのだが……。
(WOWOWの番組内容から引用)
若きコンマス・香坂と破天荒な指揮者・天道を中心に、音楽に真剣に取り組む楽団員たちを取り巻く物語。
前半、ところどころ、御都合主義っぽいストーリーのつなぎもあるんだけど、まぁ古株の楽団員と、新入りのあまねがうまく狂言回しを演じて、壊れそうになる楽団員たちの気持ちをつなぎとめていきます。
楽団員たちが、天道にぐうの音も出ないほどダメ出しされて反発するワケですが、破天荒な指導方法に見えて、結果的にちゃんと音が揃うようになったり、しっかり音が分厚く出るようになったりと、実は理に適った指導であることが分かってきます。また、へこませたベテラン楽団員には、ぶっきら棒なアプローチながらも、ちゃんとカバーしてみせる天道に、楽団員たちも一人、二人と、次第に信頼を寄せるようになり始めます。
練習中、あまねが楽団員の前で、ソロを披露する場面があります。
幼いころの、胸が張り裂けそうな体験を回想しながら演奏するあまね。
まったく知らない曲だけど、あまりに美しいフルートの音色に、ぶわっと涙が溢れてしまいました。
中盤の見どころの一つだと思います。
後半、スポンサーが降りたため、復活演奏会を中止せざるを得なくなったとき、練習場の廃工場で一人エア指揮をする天道の元に、一人、二人と楽団員たちが戻ってくるところがターンオーバー。
天道と父との関わりを知った香坂だけが、天道に対して心を開けないまま楽団に戻ってこないのだが、ここでもあまねが香坂を引っ張り出し、重要なシーンへと導きます。
そして、なんだかんだで演奏会初日を迎えるワケですが、ここからはオケの怒涛の演奏シーンが挿入され、天道、楽団員たちの鬼気迫る熱演に、思わず息を呑んで見入ってしまい、すべての演奏が終わったあと、痺れてしまった五感をゆっくりと解きほぐすように、絶妙な間合いの静寂が訪れます。胸いっぱいに溜め込んでいた息を、長く、ゆっくりと吐き出す、そして、会場からポツリポツリと拍手が始まると、ホール全体が鳴り響くような盛大な拍手に包まれ、天道がうやうやしく一礼をして、大いなるカタルシスを味わいます。
そして、その静寂の中で、香坂は、父から教えられた〝天籟〟の音を、確かに耳にしたのです。
ところが、物語はここで終わりません。
演奏会2日目に、さらにこの上ない演奏体験が、香坂を待ち受けていました。
この一曲に、命を賭して臨むような、究極の演奏。
香坂の息遣いが、次第に荒々しくなっていくのに合わせて、観る者の緊迫感も高まってゆきます。
この2日目の演奏シーン、悟りの境地に至ろうとするかのような表情で指揮する天道と、それに同化するように演奏する香坂の演奏に、完全に持って行かれました。
『この世で、音楽がイチバン美しいでしょ』
確かに、そうだと思える瞬間に、映画の上でだけど、立ち会えた気がしました。
ラストで、練習場を一人で閉鎖する天道を待ち受ける楽団員たち。
香坂が進み出て、天道にタクトを返すと、最大級の敬意をこめて
『あなたの棒です、マエストロ』
すがすがしい気持ちで、観終えました。
音楽には、確かに魂を浄化する作用がある、そんな思いを強くしました。
※クラシック音楽を扱った映画
vgaia.hatenadiary.org
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●監督:小林聖太郎 ●脚本:奥寺佐渡子 ●原作:さそうあきら(コミック『マエストロ』/漫画アクション連載・双葉社刊) ●音楽:上野耕路 ●指揮指導:佐渡裕 ●オーケストラ:ベルリン・ドイツ交響楽団 (Deutsches Symphonie-Orchester Berlin)