一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

旅の重さ

私的評価★★★★★★★★★☆

あの頃映画 「旅の重さ」 [DVD]

 (1972日本)

ママ、びっくりしないで、落着いて。
わたしは旅に出たの。
ただの家出じゃないの、旅に出たのよ…。


16歳の少女(高橋洋子さん)が四国遍歴の旅に出た
男出入りの多い母親(岸田今日子さん)との生活に疲れて…
数奇な体験と冒険の中で
少女は大人にめざめてくいく…
(DVDパッケージより引用)



 よしだたくろう(現・吉田拓郎)さんの主題歌『今日までそして明日から』が、恐ろしいほど映画の雰囲気にはまっている1972年の映画。


 1972(昭和47)年がどんな年だったかなぁ、と思って、主な出来事をWikipediaで検索し、自分の記憶と照らし合わせてみた…


 横井庄一さんの発見と沖縄返還で、この国がまだ太平洋戦争を完全に終えていなかったことを知った。
 田中角栄さんの列島改造論とやらに大人たちがざわついていることを肌で感じると、なんとなくこれからこの国が(物質的に)豊かになっていく予感をぼんやりと抱いた。
 札幌オリンピック日の丸飛行隊の表彰台独占に歓喜し、同級生たちが教室で、ジャンプ台から飛び出す笠谷選手のフォームを真似てはしゃぐのを横目で見ていた。
 ジャイアントパンダなる不思議な動物の来日で、日本全国が異常なほどのパンダブームに熱狂するのを見て、決して実物を見に行くことなど無いのにもかかわらず、その空気に染まって妙にふわふわと高揚してた。

 そんな一年だったっけ。


 昭和47年は、高度経済成長期の終盤で、日本の人口が1億を超えて以降〝一億総中流〟などという言葉で国民の生活レベルが向上していった時代だと思う。
 実際はどうか知らないが、当時小学生だった自分の記憶では、古い町家がひしめき合う地方都市の街並みを見たり、父親や周りの大人たちの金遣いを見聞きしたりした感じから、日本のほとんどの人が、まだまだ高度経済成長の恩恵を享受できている実感がなかった時代だったように思っている。


 地方はまだまだ貧しかった…だからと言っては失礼なのかも知れないが、本土と航路でしかつながっていなかった大きな離島〝四国〟の遍路道界隈は、高度経済成長の波に取り残されたかのごとく、まだまだ美しい田舎の景色を湛えていた。
 とにかく、さまざまな土地と、無邪気な少女と、自然の織り成す色彩と、が描き出す〝古きよき昭和の日本の田舎町の美しさ〟に、すっかり心奪われ、見入ってしまうばかりだ。


 ひとりで四国八十八箇所めぐりをする16歳の少女のロードムービー
 実質〝家出〟の一人旅。
 死んでほしいと思うほど憎くて愛おしいママに、居所を知らせない一方通行の手紙で旅の様子を知らせる。


 16歳の少女の旅は、見ていてホントに危なっかしい。
 『のんちゃんのり弁』の小巻も見ていて危なっかしいと思ったけど、あちらは結婚して子どももいるオトナの女性だし、映画自体も〝ハートフルムービー〟だ。
 だが、この映画では、生々しいオトナの欲望もむき出しのまま突きつけられるし、過酷な自然の脅威や病気も容赦なく襲ってくる。
 わずか16歳の少女が経験するには、あまりにも唐突で性急な荒波ばかり。
 それこそ〝旅の重さ〟だ。
 しかし、それゆえ、40半ばの漁師兼行商のオッサンに惹かれて〝奇妙な新婚生活〟のようなものを始める流れにも、納得感がある。
 16歳の少女の、心の成長と、たくましく生きる力を見せ付けられた気がした。

 へなちょこオッサン、感服、いや、完敗した気分^^;




 どうでもいいことだが。

 DVDパッケージには16歳と書いてあるんだが、同録の予告編では18歳になっている。
 予告編のときと本編との間で内容に変更があることなんて、ままあることだが、主演の高橋洋子さんは、撮影時には18歳か19歳だったろうから、原作が16歳なのかしら?
 でも、本編でママに宛てた手紙に『16歳にもなって…』とあるので、やっぱり16歳なんだ。
 いや、ホント、どうでもよかった^^;



※この映画と同じ年の公開
vgaia.hatenadiary.org
※少女がひとりで四国八十八箇所めぐりをするロードムービーといえば…
vgaia.hatenadiary.org


●監督:斎藤耕一 ●脚本:石森史郎 ●音楽:よしだたくろう ●原作:素 九鬼子(小説『旅の重さ』/角川文庫刊)