ミッドナイトスワン
私的評価★★★★★★★★☆☆
(2020日本)
あなたの母になりたい―。
陽の当たらない場所で、あたたかな愛が生まれる。
新宿のニューハーフショークラブ<スイートピー>では、メイクしステージ衣装に身を包み働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛さん)。洋子ママ(田口トモロヲさん)が白鳥に扮した凪沙、瑞貴、キャンディ、アキナをステージに呼びこみ、今夜もホールは煌びやかだ。
「何みとんじゃ!ぶちまわすど!」
広島のアパートでは、泥酔した母・早織(水川あさみさん)が住人に因縁をつけていた。
「何生意気言うとるんなあ!あんたのために働いとるんで!」
なだめようとする一果(服部樹咲)を激しく殴る早織。
心身の葛藤を抱え生きてきたある日、凪沙の元に、故郷の広島から親戚の娘・一果が預けられる。
「好きであんた預かるんじゃないから。言っとくけど、わたし子供嫌いなの」
叔父だと思い訪ねてきた一果は凪沙の姿を見て戸惑うが、二人の奇妙な生活が始まる。
凪沙を中傷したクラスの男子に一果がイスを投げつけ、凪沙は学校から呼び出しを受ける。
「言っとくけどあんたが学校でなにをしようと、グレようとどうでもいいんだけどさ、私に迷惑かけないでください。学校とか、謝りにとか絶対行かないって先生に言っといて」
バレエ教室の前を通りかかった一果はバレエの先生・実花(真飛 聖さん)に呼び止められ、後日バレエレッスンに参加することになる。
バレエの月謝を払うために凪沙に内緒で、友人の薦めで違法なバイトをし、警察に保護される一果。
「うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きて行かなきゃいけんけえ…強うならんといかんで」
凪沙は、家庭環境を中傷され傷つく一果を優しく慰める。
やがて、バレリーナとしての一果の才能を知らされた凪沙は一果の為に生きようとする。
そこには「母になりたい」という思いが芽生えていた―。
(映画『ミッドナイトスワン』公式サイト「STORY」より引用)
う~む。またしても広島弁のガラの悪さが、全国に配信されてしまったような気がしたんじゃのぉ^^;
ま、それはさておき。
美しい主題曲のメロディーでしっとりした雰囲気も醸してますが、ハードな内容もいっぱい盛り込みつつ、結局最後で何が言いたかったのか、よく分からない感じの映画になってしまった。そんな印象じゃなぁ。
これは、〝白鳥の湖〟のストーリーを知って見るのと、知らずに見るのとでは、印象が違うじゃろなぁ。
タイトルの〝ミッドナイトスワン〟は、本作で一果がコンクールで演じることを決めた〝白鳥の湖〟に由来しとるようじゃな。
あまり深く内容は覚えとらんのじゃが、確か悪魔に呪いをかけられ白鳥の姿に変えられたオデット姫が、湖で月の光に照らされた間だけ元の人間の姿に戻ることができ、その様子を見た王子に求婚されるんじゃが、悪魔がオデットの風貌に似せた別の女性を王子の前に送り込むと、王子はその女性がオデット姫じゃないことを見抜けんでそのまま結婚してしまい、それを王子の裏切りと嘆いたオデットが湖に身を投げて死ぬ……みたいな、ずいぶんと身も蓋もない、嫉妬に狂ったような悪魔のひどい仕打ち話じゃったと思うんじゃ。
ゆーか、高校時代にクラシック大好きな友人に教えられたきり、うろ覚えじゃったけぇ、ネットで調べ直したんじゃけどな^^;
せじゃけぇ、うろ覚えでこの映画観たあと、なんか釈然とせん印象じゃったんじゃけど、このあらすじで腑に落ちて、なんか、逆に今、余計にしんみり来とるワケじゃ。
本作の中でも、凪沙と一果がオデットの踊りを練習しているところを見た老人が、『美しい姫たちだが、朝になったらまた白鳥に戻ってしまう』と言われるシーンがあったんで、間違いなかろうね。
凪沙はトランスジェンダーであることを、小学生時代に自認していたにも関わらず、母親にすら気づかれないように過ごしてきたようじゃなぁ。
つまり、本当の自分を押し隠して生きてきた。
家族にも分かってもらえない、本当の自分。
大人になって東京で一人暮らしを始めて、凪沙はやっと本当の自分を出せる場所を見つけるけど、それでも実家の母との電話では、男の地声でキツい広島弁を話すことで、本当の自分を隠している。
まさしく本当の自分を見抜いてもらえない、というか本当の自分を晒すことができない〝ミッドナイトスワン〟というワケじゃなぁ。
トランスジェンダーである凪沙の人生は、過酷に見えて辛かったなぁ。
ネタバレになるので、書かんけど、かなりぎっしりと過酷なエピソードが詰め込まれとると思ったわ。
感情移入してしまうと、しんどくてたまらなくなるじゃろうなぁ、と思うよ。
一方の一果も、水商売しながら荒んだ生活を送る実の母親に、本当の自分をさらけ出すことができず、ヒステリックに悲鳴を上げそうになる時には、腕を強く噛んで声を押し殺すという癖がついてしもうとったんじゃな。ときどき癇癪起こしたように、椅子をぶん投げて人をやっつけるのは、日ごろ抑え込んでる分、反動が大きいんじゃろかなぁ。
母親の元から離され、凪沙に預けられることになるんじゃけど、いずれ二つの魂が惹かれあうようになるのは、必然だったと言えるじゃろ。
なんかな。結局のところじゃけど。
一果を抱きしめ、涙をこぼしながら吐き出す、凪沙のこのセリフに集約されてるんかなぁ、思うたでぇ。
『うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きて行かなきゃいけんけえ…強うならんといかんで』
性同一性障害の凪沙と、親にネグレクトされてた一果は、『うちらみたいなん』で一括りにされて、良かったんかなぁ、とは思ったんじゃけど、まぁそこはええんかいね。
人は、悲しみを乗り越えた分だけ、強く、優しい人になれる気がするんじゃなぁ。
その悲しみに、押し潰されさえせんかったら……。
一筋縄ではいかない、Bitter & Bitterな感じの、この上なく、切ない映画じゃった……。