一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

はりぼて

私的評価★★★★★★★☆☆☆

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映画『はりぼて』公式サイトより引用

 (2020日本)


 “有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一”である保守王国、富山県。2016年8月、平成に開局した若いローカル局チューリップテレビ」のニュース番組が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ報道をした。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員辞職。これを皮切りに議員たちの不正が次々と発覚し、半年の間に14人の議員が辞職していった。

 その反省をもとに、富山市議会は政務活動費の使い方について「全国一厳しい」といわれる条例を制定したが、3年半が経過した2020年、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていった。記者たちは議員たちを取材するにつれ、政治家の非常識な姿や人間味のある滑稽さ、「はりぼて」を目のあたりにしていく。しかし、「はりぼて」は記者たちのそばにもあった。
 本作は、テレビ番組放送後の議会のさらなる腐敗と議員たちの開き直りともいえるその後を追った政治ドキュメンタリー。あっけなく辞職する議員たちの滑稽な振る舞いは、観る者の笑いを誘わずにいられない。追及する記者を含めた私たちは、腐敗した議会や議員たちを笑うことしかできないのだろうか。果たして「はりぼて」は誰なのか?地方からこの国のあり方を問うドキュメンタリーが誕生した!

(映画『はりぼて』公式サイト「解説」」より引用)
haribote.ayapro.ne.jp


 硬派な地方政治ドキュメンタリーだと思って観たら、肩透かしを食らいます。
 まぁ、予告編見てたら、その辺は気づくでしょうけど^^;
 なんとも早……これがドキュメンタリーって……『プロの役者や芸人がギャグ満載のドラマを演じるより数段おもしろい』って言ったら、失礼かなぁ。


 「もう膿は出し尽くした」とか「私は潔白だ」みたいな発言のあと、まさしく『舌の根の乾かぬうちに』というタイミングで、次々と発覚する不適切な(詐欺罪などで刑事告発されるような)政務活動費の支出で、こぞって謝罪会見をし、あっ気なく辞職していく議員たちの映像は、呆れるを通り越して滑稽でしかありません。
 辞職した議員の一人が、「何故、不正をしたのか?」というメディアの問いに「遊ぶ金が足りなかった」とか、実に〝人間臭い〟とも言えますけど、生々しすぎて、笑うに笑えないハナシです。

 また、行政側も、情報公開請求者を議員に漏らすという不法行為があったことを追及されると、回答に窮してつい本音が漏れてしまう場面を動画に抑えられていたりして、あらゆる場面で〝権威の失墜〟が起こっているというのか、そこが『はりぼて』たる所以か、というような映像が、次から次へと映し出されます。

 そのうち、不正を働いた市議だけが追及されているのではなくて、行政側も、そしてそういう馴れ合い的な政治状況を許してきた保守王国・富山の選挙民自身(いや、その他の地方のこの映画を観ている人たちみんな)も、責めを問われているような気がして来ます。

 しかしねぇ、何と言うのかなぁ……確かに不正はアカンが、市政のために尽力した(と思われる)こともあった、みたいなこともチラッと挿んできたりして、「???」なんですよねぇ。
 「こんなにも、ぼろぼろになるまで追及してきたのに、止めを刺さないの?」って思ったんですけど、一方で、ふだん目にするマスメディアやネットの書き込みなどが、あまりにも〝正義と悪の二元論〟が勝ちすぎていて、息苦しさばかり感じていることに、改めて気づかされるようなところもあって、説明不能な苦々しいような気持ちにもなるんです。

 そして、自らを正すため、全国でも最高レベルに厳しい政務活動費の運用を始める富山市議会なのですが、その後も不正は発覚し続け、ついには自分のは辞職した議員とは事情が違うとばかりに居直り、居座る議員も出てくるに至っては、追及する記者たちの言葉にも虚しさが漂い始め、まさかの「報道側まで『はりぼて』だったのか?」みたいな、なんとも救いようのない残念な空気感が画面から漂って来てしまうんですよ。


 無力感は否めません。
 否めませんが、それでも、選挙民は、この映画のような実情に憤り、ちゃんと権利を行使して選挙に行くしかないよなぁ、って。


●監督:五百旗頭幸男、 砂沢智史