一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ションベン・ライダー

私的評価★★★★★★★☆☆☆

ションベン・ライダー (HDリマスター版) [DVD]

 (1983日本)

相米慎二監督の代表作の1本である傑作。ヤクザに誘拐された友人を救うため、中学生3人組が冒険に挑む青春サスペンス。永瀬正敏河合美智子坂上忍が若かりし日に共演。

 中学生の3人組、男子のジョジョ永瀬正敏さん)と辞書(坂上 忍さん)、女子のブルース(河合美智子さん)は、今日こそガキ大将のデブナガ(鈴木吉和さん)をやっつけてやろうと思っていたが、そんな3人の目前でデブナガは、2人のチンピラ(山:桑名正博さん/政:木之元亮さん)に誘拐される。どうやらデブナガの父親(前田武彦さん)は暴力団同士のドラッグ取引に関与しており、それを面白く思わない横浜のヤクザがこの件に乗り出したようだった。ジョジョたち3人はデブナガを救出すべく、中年ヤクザ厳兵(藤 竜也さん)も仲間にして日本各地を巡る冒険の旅へ……。
WOWOWの番組内容から引用)



 『鬼ガール!!』を鑑賞した映画館の思い出で触れた本作を、その日以来37年ぶりに観返してみたワケです。

 思い出とは、かくも儚く、いい加減なモノなのか……^^;

 正直、冒頭の誘拐シーンから放水路で3人組がデブナガの行方を詮索しているシーンくらいまでしか記憶に無かったです。
 その間、だいたい15分くらい?
 本編が118分だから、100分以上が記憶の彼方……なのか、そもそも寝落ちして見てなかったのか?
 なんか、自信がないので、きっと寝落ちしてたんでしょうねぇ^^;


 しかし、凄まじい映画ですね。

 中学生が夏休みに羽目を外すにしても、目に余るほど破天荒でハチャメチャなストーリーです。
 せめて高校生くらい……であっても、ハードだなぁ^^;

 そもそも人一倍体格も態度もデカくて、いつも取り巻き数人を引き連れて3人をイジメていたガキ大将のデブナガを、「ヤクザに殺される前に仕返ししたい」なんて動機で追いかけるなんて、無理やり過ぎないですか?
 それも、あっさり人を殺してしまうような危険なチンピラ2人組を追跡するのに、覚醒剤を常用していてチャカや長ドスを出鱈目に振り回すようなイカレた中年ヤクザにつきまとって、横浜~熱海~名古屋に流れ着くって、どんな神経なん?

 その他にも、厳兵との絡みや横浜の不真面目な警官・田中(伊武雅刀さん)との絡みなど、さまざまなシーンで中学生が取る行動が意味不明すぎて、「いったいどんな気持ちでそういう行動になるの?」と、たまげることが多すぎます。
 うん、まるで青臭いギャングたち。

 まぁ、とにかく、オッサンになった今のボクは「無鉄砲にもほどがあるでしょうが」と思いつつ、たぶん二十歳前後のころのボクなら、何にも考えずにワクワクしながら観てただろうな、とも思うのです。

 あと、この映画、ワンカット長回しの引きの映像が多いせいか、子どもたちの表情を読ませるような説明的なシーンが少なく、まるで個人撮影の誰かの日常の映像を見せられているような印象を受けるようなところがあります。
 その辺も相まって、もしかしたら「よく分からなかった」という感想もあるかも知れないな、とも思いました。

 つくづく、映画でも小説でも漫画でも、いつ、どんな精神状態で触れるかで、まったく感想が違ってくるモノだよな、と思い知らされます。


 印象に残ったシーンを少しだけ。

 厳兵が3人を船から追い出すのに、これでもかこれでもかとばかりに執拗に蹴り倒していくシーンの凄まじさ。
 大人相手のヴァイオレンス映画ならまだしも、中学生相手にそこまでやるかぁ、と呆れました。

 厳兵は熱海でも覚醒剤で幻覚症状に見舞われたのか、トチ狂ったように長ドスを振り回して、部屋を訪れた中学生を追い回すという暴挙に出ます。
 ところがその途端、窓の外では大輪の花火が打ち上がり始め、厳兵のご乱心は、なんともシュールな美しい場面になってしまうから、困ってしまいます。

 名古屋で厳兵・ジョジョが、中学校のアラレ先生(原 日出子さん)の車で合流した2人とともに、大量の材木が浮かぶ木場で繰り広げる追跡劇は、遠目からワンカット長回しで撮影された中に凄まじいほどのアクションが詰め込まれていて、圧巻でした。
 特に、合流直後に河合さんと原さんが、すごい高さの橋の上から川に飛び降りるシーンが、いきなり引きの映像で映し出されたときには、唖然としました。

 その他のシーンも含めて、けっこう役者さんにはハードな撮影だったことでしょうね。

 個人的には、河合さんが熱海で迎えた朝に、着衣のまま海にずぶずぶと入っていくシーンが好きです。
 少年のようにふるまい、男の子同士の友情で結ばれてるようなつもりでいたのに、不意に訪れたその瞬間に戸惑いを隠せず、海に入ってしまうしかなかったブルースの表情に、胸がキュンとなりました。
 乱暴で粗雑なふるまいばかりが目立つ映画ですが、少しだけボクらの世界とつながってることを感じさせられるシーンでした。


 映画は撮られた時代の空気感なんかも、作品内容に影響します。
 80年代は〝軽佻浮薄〟の時代と言われていましたが、大らかで粗雑な時代だったとも言えるのかなぁ。

 ただ、昨今の観覧者にやさしい商業映画を観慣れていると、かなり刺激的な映画であったことは確かです。



相米監督の数ある作品の中で、泣きたくなるほどイチバン大好きな作品。
vgaia.hatenadiary.org

●監督:相米慎二 ●脚本:西岡琢也チエコ・シュレイダー ●原案:レナード・シュレイダー