一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ホテルローヤル

私的評価★★★★★★★★★☆

f:id:vgaia:20201115235956j:plain
映画『ホテルローヤル』公式サイトより引用

 (2020日本)

 北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。雅代(波瑠さん)は美大受験に失敗し、居心地の悪さを感じながら、家業であるホテルを手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業、宮川(松山ケンイチさん)への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。甲斐性のない父、大吉(安田 顕さん)に代わり半ば諦めるように継いだホテルには、「非日常」を求めて様々な人が訪れる。投稿ヌード写真の撮影をするカップル、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師。そんな中、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく・・・。

(映画『ホテルローヤル』公式サイト「STORY」より引用)
www.phantom-film.com


 柴田まゆみさんの名曲〝白いページの中に〟をLeola(レオラ)さんという方がカバーして、エンディングで流れるのですが、ほぼオリジナルのままなので、思い切り泣きそうになりました。
 柴田まゆみさんは、ヤマハポプコンをこの曲で勝ち抜いて、1978(昭和53)年にデビューされたんですが、もともとプロ歌手志望ではなかったとかで、実はこの1曲だけで引退されたんですよね。ところが、その1曲がいろんな方に歌い継がれて、令和になっても映画の中でよみがえった、というワケです。

 ボク自身は、当時中学3年生で、毎晩遅くまでラジオを聴きながら、受験勉強に励んでいた頃……なワケない。嘘です。ラジオばっかり聴いてて勉強に身が入ってなかった頃です^^;
 だいたい22時からMBSヤングタウン毎日放送ラジオ)を、受信状態が決して良くないながらも聴いていて、何時だったか忘れたけど半島の放送が終了すると、比較的クリアに聞こえるようになってたの、思い出しますねぇ。その後日付変わって1時から、曜日によってはオールナイトニッポンだったりパックインミュージックだったりにチューニングを切り替えるんだけど、それらを聴かない曜日はそのままMBSラジオで〝コッキーポップ〟が始まって、俳優の大石吾朗さんが魅惑の低音でMCを務め、ポプコン排出のアーティストの曲を流したり、コンテストの告知とかしたりしてるの、ほぼBGM化したようなカンジで30分間聞き流してたんですよ。

 その時に聴いてた曲の一つが柴田さんの〝白いページの中に〟だったんだけど、彼女の耳に心地よい歌声と、ちょっと物憂い感じのメロディが耳について、すっかり好きな曲になってたんですよね。今でも不意に深夜にラジオから流れてきたりすると、当時の帰らぬ青春の日々をじわっと思い出して、涙がこぼれてしまいます。


 年寄りの寝言はさておき。


 この曲も含めて、全体的に〝昭和〟を感じるような映画でしたね。
 ラブホテルが舞台、と言うことですが、イメージ的には郊外型のモーテルが舞台、ですね。

 美大受験に失敗した雅代が、仕方なく家業のラブホテルを手伝うことになるんですが、いろいろと感情をかき乱されるであろう出来事が多々ある中、ひたすら感情を押し隠したまま、努めて冷静に毎日のルーティーンをこなしていきます。

 ホテルを利用するカップルの様子は、控室のスピーカーの音声でモニターされており、ラブホテルが〝非日常的な空間〟だからこそ喋ってしまうような本音の端々から、日ごろ声にできないような、さまざまな鬱屈した人間模様が浮かんできます。
 ホント、なんっちゃないハナシなんです。正直なところ、昭和の下世話な週刊誌でお目にかかるような、なんっちゃない出来事しかないんですけど、役者さんたちの演技が素晴らしくて、なんかしら、ビシビシ胸に響いてくるモンがあるんです。

 なんだろうなぁ。
 なんかね。このラブホと言う異空間でだけ素直にいられる人たちのことが、たまらなく愛おしく思えてくるんですよねぇ。
 外じゃあ、いろんな肩書や立場を背負って、溺れそうになりながらも精一杯カッコつけて生きてるワケじゃんね。
 ラブホの部屋の中がさ。オカンの胎内みたいで、ちょっと安心感ある、みたいな。
 あぁ、でも。そんな部屋の中で、心中しちまったカップルもあったんだよな。
 もう、居心地の悪い、外の世界に出ていけなくなったのかな?
 うん。そうなのかもな。


 ある意味、掃き溜めのような場所で、ひとり凛として生きてる(ように見える)雅代の存在感が、凄いです。
 宮川の言葉に、リアルに傷ついた雅代の心情を思って、なんか知らんけど涙こぼれてもたよ。
 やっと、心が解き放たれたんかな?
 波瑠さん、めっちゃステキでした。


●監督:武 政晴 ●脚本:清水友佳子 ●原作:桜木紫乃(小説『ホテルローヤル』/集英社文庫刊)