一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―』公式サイトより引用

 (2020日本)

そのドクターは、
救世主か、猟奇犯か。

 「苦しむことなく殺してさしあげます。」ある闇サイトで依頼を受け、人を安楽死させる連続殺人犯ドクター・デス。その人物の存在が明らかになったのは、「お父さんが殺された。」という少年からの通報がきっかけだった。警視庁捜査一課のNo.1コンビ犬養(綾野 剛さん)と高千穂(北川景子さん)は、さっそく捜査を開始。すると似たような事件が次々と浮上する。捜査チームのリーダー麻生(石黒 賢さん)、新米刑事の沢田(岡田健史さん)、室岡(前野朋哉さん)、青木(青山美郷さん)と共に事件の解明を急ぐが、被害者遺族たちの証言は、どれも犯人を擁護するものばかりだった。ドクター・デスは本当に猟奇殺人犯なのか?それとも救いの神なのか?そして、驚愕の事実と更なる悲劇が犬養と高千穂に降りかかる。

130人を安楽死させた実在の医師をモデルにした禁断のクライム・サスペンス

(映画『ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―』公式サイト「STORY」より引用)
wwws.warnerbros.co.jp


 あだしごとから書く。
 ホーチャンミ? 誰? 顔、見たことあるんだけど、目、口元…誰、この中年女性?
 ググった^^;
 宮澤美保? うん? ほかの出演作……『櫻の園』!!!
 冒頭でいきなり大学生と演劇部の部室でキスしてた、2年生部員のコかぁ~!


 あだしごとはさておき、原作を知らないので、Wikipediaで調べてみた。

『ドクター・デスの遺産』(ドクター・デスのいさん)は、中山七里の推理小説。刑事犬養隼人シリーズ第4作。『日刊ゲンダイ』で2015年11月3日号から2016年4月30日号まで連載され、大幅に加筆修正されたうえで2017年5月31日に角川書店より単行本として発売された。

安楽死をテーマとした作品。依頼を受けて患者を安楽死させる謎の医師を追うミステリでありながら、生きる権利と死ぬ権利、相反する当事者たちの相克と懊悩など、禁断の領域に切り込み、安楽死の是非や命の尊厳とは何かを問いかける問題提起作でもある。そして医療もの、刑事もの、さらには家族ものとしても読めるようになっている。 ウィキペディア(Wikipedia)から引用)

 〝安楽死〟をテーマに、『終末期医療のさまざまな苦しみから人々を救済する』と能書きを垂れるドクター・デスの連続殺人事件を捜査する犬養刑事の物語。

 たぶん、〝死〟だとか〝命の尊厳〟だとかに対する問題の突き付け方は、原作を読み、文字から吸収する方が、より一層強く心に焼き付けられるのではないかと言う気がするけれど、この映画全編に流れる〝命のタイムリミット〟みたいな緊迫感からも、十分さまざまなことを考えさせられ、観終えるまで、ずーっと心がジンジンとヒリついて、切迫感に圧倒され続けた。

 『人には生きる権利と、死ぬ権利が平等にあるのです』というレトリックは、今のボクには納得しがたい。
 生きる権利すら保障されているのかどうか分からない社会の中で、自分の意思で死ぬことの権利だなんて、思いも及ばない。
 それでも、この先重い病に倒れた時、終末期医療を受けながら、あとは伏して死を待つだけとなったとき、自分で考える能力まで損なわれていないのなら、自然の成り行きに任せるだろうと思う。逆に何も考えられない空っぽの状態なら、なおのこと自分で安楽死を望むこともないだろうと思う。
 誰かの重荷? 負担? 悪いけど、そんな風に思われてるのなら、もう傍にいてくれなくていいと伝えるだろうし、それでも傍を離れたくないほどの愛情を注いでくれる人がいるのなら、最後のわがまま、その愛情に包まれたまま、生を全うしたいと思う。それだけだ。

 とは言え、かつて心を病んだ経験からすると、どうしようもなく自分を追い詰めるしかできなくなるほど心が弱ってしまう状態は、十分ありえるとは思っている。

 そんな弱った心に付け込んで、自ら安楽死を望むように言葉巧みに被害者を陥れるのが、ドクター・デスの卑劣なやり口だ。
 決して救済者なんかじゃない。
 身勝手な正義感に自己陶酔し、弱った命を弄ぶように掌中で転がすような、唾棄すべき快楽殺人者だ。

 てな感じの感情がメラメラと湧き上がる一方で、被害者やその家族の思いも、重く心にのしかかってくるから弱ってしまう。

 本人が心の底から望むなら、〝尊厳死〟という選択はアリなのかも知れない。
 しかし、残される家族の思いは、必ずしも同意とはならないだろうと思う。
 ボクなら、最後まで往生際悪く、愛する家族の命をたとえ1秒でもいいから生き長らえさせてほしいと希う。
 だって、後戻りはできないんだから。

 簡単に結論出すのは難しいな。そん時が来なけりゃあ……。



 ストーリー的には、原作がおそらくフーダニット物としてドクター・デスの正体に驚愕するような展開なのかと思いつつ、この作品では、観ている人に犯人の正体が途中でバレたとしても構わない、ぐらいの肝の据わり方を感じた。ミステリーというよりサイコ・サスペンスに振り切ってるのかも知れない。

 実際、ボクは観ていて最初の30~40分くらいで、主要な登場人物が出そろったと思われた時点で、ネタというか物語の構造が分かってしまった。公式サイトでは捜査する6人の刑事しかキャストの紹介がないし、犯人と思われる役者さんの名前はペンでぐるぐると書きなぐったように消されているけど、本編を観て、見慣れぬ顔の役者さんたちが居並ぶ中に演技派のスター俳優が混じっていれば、誰でもピンと来てしまうワケだ。

 肝が据わっている、と言ったのは、それでもなおかつ、この映画を見応えあるものとして最後の最後まで観客の目と意識を画面にくぎ付けにしてやる、という気概を感じたという意味なのだ。

 実際、凄かった。犯人役の役者さんの静かで冷徹な狂気に触れて、震えが止まらないほどの恐怖を感じた。
 しかも、最後の最後まで、観ているボク自身が、犯人の狂気に追い詰められてしまってた。

 もの凄い気迫。

 ところが、画面の中に取り込まれてしまったような恐怖を感じる一方で、この凄まじいまでの迫真の演技を目の当たりにできたことに対する、言いようのない悦びに溺れそうにもなっていた。

 そして、この犯人役の凄まじさが浮いてしまわないように、主役の綾野さんはじめ、出演者のみなさんが、すばらしい演技でこの映画の疾走感と緊迫感をまとめ上げていたのが良かった。

 観終わった後のカタルシス、ハンパない。


●監督:深川栄洋 ●脚本:川﨑いづみ ●原作:中山七里(小説『ドクター・デスの遺産』/角川文庫・KADOKAWA刊)