一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

十二単衣を着た悪魔

私的評価★★★★★★★☆☆☆

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映画『十二単衣を着た悪魔』公式サイトより引用

 (2020日本)

現代のフリーターが突然『源氏物語』の世界で陰陽師に!?
異世界トリップエンターテインメント!!
自信を失ったネガティブ男子が、『源氏物語』の世界の中へタイムスリップ!
美しき最強ヒロインに出会い、次第に変わっていく・・・!

 「超一流の弟に、一段低い二流の兄貴か……」
 伊藤 雷(伊藤健太郎さん)は思わずそう呟いた。彼は日雇いのバイトで「『源氏物語』と疾患展」の設営に参加、イベント会場に流れる『源氏物語』の登場人物紹介で「デキた弟・二宮」と「後塵を拝した長男・一宮」の関係を知り、シンパシーを抱いたのだった。なぜならば、同じく弟(細田佳央太さん)は頭脳明晰かつ眉目秀麗で、かたや自分は現在、就職試験59連敗中のフリーターの身。かねてからのコンプレックスを一層こじらせている日々なのである。

 バイト後、恋人と顔を合わせたのだが何とフラれてしまい、おまけに帰宅途中、近所の知り合い(LiLiCoさん)から弟が京大医学部へ合格したことを教えられて、卑屈さはMAXに! 祝賀会が開かれる実家に帰るのはバツが悪く、バイトの土産でも らった手提げ袋を持ったまま、家の周囲をアテもなくうろつく始末。

 その心の内と同期するように、空には雷鳴がとどろき、激しい雨に見舞われると、雷はバイト先でも目撃した不思議な光に吸い込まれて、気を失った……やがて目覚めて驚いた。どういうわけかそこは1000年以上も前の平安時代、女流作家・紫式部によって書かれたあの『源氏物語』の世界であったのだ!!

 タイムスリップしてしまった雷は当然、不審者と見なされ、烏帽子をつけ袴を履いた家臣たちに牢へと閉じ込められた。思いも寄らぬことばかりでパニくったが、手提げ袋に入っていた『源氏物語』のあらすじ本のおかげで大まかな世界観を把握、口から出まかせで陰陽師・伊藤雷鳴を名乗り、さらにはこれもバイトの土産だった頭痛薬が皇妃に効いて、後宮でまんまと陰陽師として重用されることになる。

 皇妃の名は、弘徽殿女御(三吉彩花さん)。彼女は現代のキャリアウーマン顔負けの逞しいハートと冷静な分析力で、「一宮」である息子を帝にしようと野心に燃えていた。皇位を争うのは一流の男、「二宮」こと異母弟の光源氏だ。雷は自分の境遇を「一宮」と重ねつつ、辣腕で悪魔的に強き女性、“弘徽殿”に翻弄されながらも次第に触発され、運命を共にしようと決心する―。

(映画『十二単衣を着た悪魔』公式サイト「STORY」より引用)
www.juni-hitoe.jp

 
 『とんかつDJアゲ太郎』に続いて、なんかこう、キャスト&スタッフにいろいろお騒がせな出来事があって、おそらく興行的に苦戦を強いられているんじゃないかな?という印象漂う〝映画の日〟の一本です。

 何と言っても、とりあえず観てから評価して欲しいですよねぇ。
 見ないつもりなら、放っといてんか、って感じ。

 意外と面白かったんですよ。
 ライトな源氏物語
 源氏物語自体が平安時代の創作なのに、その創作の世界にトリップするって、何なん?www
 その設定で、すでに可笑しーがな。

 現代人が平安時代の〝物語〟の世界にトリップするんだから、もうすでにロジック破綻しまくってんのよ。
 平安の宮中で〝警護〟をするという最も警戒心が高くなければならない職種の人々が、スマホを見ても脅威に感じるほどの驚きがなかったり、ヘタレのフリーターが、源氏物語のあらすじしか分からないパンフレットのみの知識で、あっという間に雅の時代の暮らしに馴染んだり、安直なご都合主義が堂々と罷り通っていても、イチイチ目くじら立てるなんて、それこそナンセンスと言うモノですよ。
 それより、全てを受け入れて、単純に楽しんだ方がイイんじゃないかなぁ~って映画だと思いますよ。

 タイトルの〝十二単衣を着た悪魔〟こと〝弘徽殿の女御(こきでんのにょうご)〟を主役に据えた源氏物語の裏物語とでも言いましょうか。
 弘徽殿の女御役の三吉彩花さんの、押しの強さを感じさせる端切れの良い弁舌に、貫禄っつーか、すっげー大物女優感を覚えましたねぇ。
 御簾(みす)を上げさせて、威風堂々と登場するシーンの重厚なロック、ギターのうねりとか、めっちゃカッコ良かったですよ。
 いろいろツッコミどころはあっても、三吉さんの力強いセリフ回しのおかげで、ストーリー全体がピリリと締まってるように感じました。

 本筋ではないんですが、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)が生霊となって葵の上を呪い殺したとされるシーン。
 後から六条御息所自身が、自分が生霊になって仇なすような恐ろしいことを仕出かしたことを悟って恐れおののき、髪に付いた加持祈祷の香の匂いが染み付いて、洗えども洗えども取れない事態に半狂乱になりますが、状況があまりにもぶっ飛んでるので、元ネタを承知してなかったら、何が起こっているのか理解できないかも知れないな、なんて思いながら観てました。

 物語的には、元の世界に戻ってからのくだりが、ちょっとまどろっこしいかなぁと感じました。
 変な言葉遣いが残ってるのにも違和感覚えましたけど、まぁ、こんな展開にだけはしちゃイケないな、という一線だけは越えずにちゃんと踏み留まったので、ま、OKです。


 最後に。伊藤沙莉さん、やっぱり魅力的。
 初登場のシーンの絶妙な醜女(しこめ)具合もなかなか^^;
 そして、何と言っても最後の笑顔。無敵だと思ったわ~。

●監督:黒木 瞳 ●脚本:多和田久美 ●音楽:山下康介 ●雅楽監修:東儀秀樹 ●原作:内館牧子(小説『十二単衣を着た悪魔』/幻冬舎文庫 刊)