一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

森の学校

私的評価★★★★★★★★★☆

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『ドリパス | リクエストの多い映画を映画館で上映します!』Websiteより引用

 (2002日本)

子供の遊び場は何処にいったのでしょうか?
まだまだ自然の中に遊び場はある筈です…

「子供の自然を取り戻そう」をテーマにしているこの映画は、河合雅雄原作「少年動物誌」(福音館書店刊)を原作に創作した物語です。

 歯科医の家庭に生まれた六人兄弟 仁(ひとし/久保山知洋さん)・公(ただし/登坂紘光さん)・雅雄(まさお/三浦春馬さん)・ 道雄(みちお/小谷力さん)・隼雄(はやお/小阪風真さん)・逸雄(いつお/小阪明日佳さん)が 丹波篠山の山野を駆け回り、川や 田圃で泥だらけになりながら、自然の素晴らしさや 美しさ、生命の尊さをさまざまな出会いや別れによって心に刻んでいく、 感動の腕白物語です。

 加えて両親の愛情表現は親と子の本当のあり方を考えさせられると信じます。

 この映画を一人でも多くの方々が鑑賞される事で、 さらに親と子・人間と自然の未来への新たなる交流が始まります。

『森の学校』Website「あらすじ」より引用)
www.dreampass.jp


 TOHOシネマズの再上映リクエストサイト『ドリパス | リクエストの多い映画を映画館で上映します!』に寄せられた多くの映画ファンの投票のおかげで、本日鑑賞いたしました。便乗させていただき、恐縮です。ありがとうございました。勢いで、観終えた直後、劇場スタッフ数名の呼びかけに促されるがままに、パンフレットまで購入してしまいました。この厚さで700円は…まぁ、イイでしょう。正月だし、御祝儀です(なんのこっちゃ^^;)

 しかし、まさか2020年末最後に劇場で観た映画が、三浦春馬さん最後の主演作で、2021年最初に劇場で観た映画が、三浦春馬さん初の主演作になるなんて、まったく想定してもいなかったんです。というか、今日までの限定上映作品、さらに今日の祝日がたまたま休みのシフトだった、という巡り合わせが重なり、作品内容も出演者もまったく知らないまま不思議な力に吸い込まれるようにチケット予約してしまってたのです。そもそも祝日は人出が多いので、劇場には行かないマイルールだったのにも関わらず……どうも、不思議なご縁に導かれたのではないかと、感じないではいられませんね。


 さて、昭和10年頃の丹波篠山を平成14年に撮影するのはいかがだったでしょうか。
 建物などは、まだ昭和の風情を残しているモノが残っていたのでしょうかね?
 パンフレットを見ると、さすがに道路はあらかた舗装済みだったそうですが、力業にもほどがあるとでも言いましょうか、撮影場所の路面に相当量の土をダンプで運んできて、昭和10年の未舗装路を再現したのだとか。

 フィルム撮影による柔らかく穏やかな画面とともに、今では昭和の景色を再現するのは、ほぼ無理でしょうねぇ。
 『ALWAYS 三丁目の夕日』のように、割り切ってほぼCGで再現してしまうか、『ゼロの焦点』や『T・R・Y』あるいは『魍魎の匣』のように、韓国や中国で戦前・戦中・戦後の日本を彷彿とさせる景色の中でオープンセットを組んでロケするか(それも、今どきは難しくなってきてるかもな)、いずれにしても、本作のような雰囲気たっぷりに昭和を再現した映画を撮影するのは、今となっては夢また夢のお話なのでしょう。

 そういう意味でも、65年以上も過ぎた時代に過去の世界を作り上げた本作は、とても素晴らしい仕事をしていると思います。
 ちなみに、ほぼ同じ時代の昭和11年の貴重な映像『有りがたうさん』を観ると、実際の当時の景色や人々の暮らしぶりなどを垣間見ることができます。


 さて、三浦春馬さん演じる主人公の雅雄は兄弟に〝マト〟と呼ばれています。
 マトはすぐ熱を出して何日も学校を休むくせに、めっぽう腕白なやんちゃ少年です。
 マトは歳の近い弟のミト(道雄)とよく一緒に遊びに出掛けます。
 マトは、動物や虫が大好きで、家にたくさんの生き物を飼っており、ミトとともに世話をしています。二人は森にすむ生き物も大好きですが、カエルなどをぱちんこの的にして軽々しく命を奪う遊びも行っており、ある出来事をきっかけに、命を奪う遊びは止めようと反省する場面もあります。

 農夫が担ぐ肥担桶(こえたご)が近づくと、マト・ミトが揃って鼻をつまんで息を止め、そのあと農夫が野壺(のつぼ/肥溜め)に糞尿を流し入れる映像が出て来ます。もうイヤな予感しかしません^^; 案の定、マトは勢い余って野壺にはまります。ミトに「誰にも言うなよ」と口止めして、川で全身を洗いますが、竹竿に洗ったランニングシャツやら半ズボンやらを刺して蓮の葉で顔と局部を隠して歩いていれば、誰に遭ってもバレバレです。
 あだしごとですが、ボクも少年時代、家の近所の肥溜めにはまったことがありますが、マトが落ちた時より悲惨な状況になりました。さすがに映画でリアルに描くには、忍びなかったモノと思われました^^;

 マト・ミトは、同じ集落の尋常小学校の子どもたちとも仲良く遊びに出かけます。
 鳥の声、虫の声、せせらぎの音、葉ずれの音、虫取り、川遊び、豊かな里山を駆け巡る少年たちの姿は、当時の子どもたちの様子を活き活きと再現してみせてくれます。
 今どきと違って、横繋がりじゃなく、学年を越えた縦繋がりの集団で遊びます。
 年上の子が年下の子の面倒をみながら、そして年上の子の中でもイチバン活発な子が〝ガキ大将〟になり、マトも上の学年の子から栄誉ある称号を受け継ぎます。

 時には別の集落のガキ大将が率いる集団と衝突することもあります。
 一対一の素手の勝負を宣言したマトに対し、ガキ大将である憲兵隊長の息子が、木刀で襲って来ますが、マトは素手で立ち向かって鼻っ柱を折って負かしてしまいます。しかし、あとで学校に憲兵隊長が負傷した息子を連れて怒鳴り込みに来ました。
 マトの父もやって来ますが、大変な剣幕でマトに詰め寄る憲兵隊長の気勢を削ぐかのように、マトを「おまえは偉い!」と大声で褒めます。そして、マトに「額のアザがどうやってできたか」と尋ねると、マトは「憲兵隊長の息子に木刀で殴られた」と。父は振り返り、憲兵隊長の息子に「鼻の下のアザはどうやってできたか」と尋ねると、彼の息子はバツが悪そうに「マトに素手で殴られた」と。父は憲兵隊長に「息子にケンカの仕方を教えたらどうだ」と諭すように告げると、憲兵隊長は苦虫をかみつぶしたように。

 歯科医でもあるマトの父は、人当たりは良いが、六人の息子たちには厳格な父親です。しかし、叱るときと褒めるときのメリハリが効いていて、子どもたちも尊敬しているように見受けられました。ただ、叱る過程で、ビンタを張ったり、納屋に閉じ込めたりという、今では虐待とされるような行為もします。そんな時代です。戦前・戦中の昭和の父親像なのでしょう。

 父方の祖母のことも、ふれておきます。
 この時代の女性は、穏便に事を済ませるのを是としていたのでしょう。
 憲兵隊長の息子をマトがやっつけてしまって、「面倒なことをしてくれた」と親たち数人が苦情を言いにマトの家を訪れると、わざわざ遠方から駆け付け、「何があったかよくは分からないけど、孫のやったことだから、この婆の顔に免じて赦してやってくれ」と言ってしまうのです。
 当然、マトは「何も知らないくせに、勝手なことをするな」と怒りますが、祖母はただただ、孫のマトが「熱をだしていないか、学校の勉強が遅れて困っていないか」と無辜の愛を注ぐばかり。祖母と孫の気持ちは嚙み合いません。
 そこへ、マトの暴言に怒った父が、ビンタを一発見舞い、マトを納屋に閉じ込めると、祖母(父にとっては母親)にも「勝手に謝るな! マトが一方的に悪者になるだけじゃないか!」と一喝してしまうのです。
 やるせないですねぇ。みんな、マトのことを思って、愛情を精一杯注いでいるのです。
 翌朝、とぼとぼと家に戻る祖母を、父が自転車で追いかけて、ちゃんちゃんこを着せると荷台に乗せて家まで送り届けます。
 そのとき、息子の体にしっかりと何度もしがみつく母親の姿がいじらしくて、胸が熱くなってしまいました。


 本作は世代を越えた子どもたち同士がふれあい、里山を駆け回って生き物とふれあい、遊ぶ、そんな姿が描かれています。
 今となっては、子どもたちだけで自由に遊びまわれる自然環境は、ほぼ無いんじゃないかという気がしています。里山はあるでしょうが、今どきの子どもたちの教育環境の中では、大人たちの目が届かないところで勝手に遊べない雰囲気があるように思うのです。
 とは言え、以前、野外活動を指導するような施設に勤務していた経験があるんですが、今でも子どもたちに自由な行動を許すと、いろんな世代で集まって勝手に遊びを見つけ、野山を駆け回るんですよねぇ。
 だから、希望はあるんです。子どもたちと里山のマッチング。
 ある意味、机上では学べない、本物の生きる力を育む環境づくり。
 少子化の今だからこそ、そういう体験をより多くの子どもたちに積ませたいところです。


 最後に、三浦春馬さん11歳当時の、瑞々しい演技を拝見して、寂しさ、愛おしさを感じるとともに、映画人として活躍された彼の作品の数々を、こうしてボクらがずっと観続けられることに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 本作でもっとも気に入ったシーンは、転校生の少女役の小峰玲奈さんが、熱を出して学校を休んだマトのために、彼の部屋いっぱいに捕まえてきた赤とんぼを放ったとき、マトが嬉しそうな表情を浮かべた場面でした。

 謹んで、三浦春馬さんのご冥福をお祈りいたします。



※この映画も雰囲気似てるかな?
vgaia.hatenadiary.org
 

●企画・監督:西垣吉春 ●脚本:片岡昭義、西垣吉春、山口セツ ●音楽:藤家溪子 ●原作:河合雅雄(小説『少年動物誌』/福音館書店刊)