一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

THE ANCESTOR

私的評価★★★★★★★★★☆

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NHK WORLD-JAPANより引用

 (2017日本)

アクターズ・フィルム・プロジェクト 短編映画傑作選 10の宇宙 ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 短編映画傑作選 10の宇宙 #9 THE ANCESTOR

 短編映画には、長編映画を超える瞬間がある。一点に向かって宇宙を集中させるその形式には、映画のもつ可能性のすべてが埋蔵されている。SSFFが厳選した10の傑作。

 暗く静かな闇の中、遠くから誰かに呼ばれる声がして目が覚めると、目の前には一人の悩める青年がいて、彼は自分の子孫だという。そこは1000年後の3022年の世界。悩み事の解決方法の指南役として、無理矢理召喚されたのだった。

 ◆ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2018 ジャパン部門優秀賞「THE ANCESTOR」、製作国/日本(2017年)
WOWOWの番組内容から引用)



 まるでアメリカンジョークのような、アイロニーの効いたお話。

 テンポの良さと、一見して不気味なんだけど可愛いキャラクターの素性の良さに魅せられて、あっという間に18分が終わったカンジ。


 今の時代に、この内容は賛否両論あることだろう。表層だけ見れば、きわめて一方的な男性目線の女性像の見方を提示しているようだけど、そこで思考を停止して拒絶してしまったら、ジェンダー間の断絶が深まるばかりな気がするので、ちょっとアタマを柔らかくして一気に最後まで観ることにする。
 
 すると、ご先祖様の言う恋愛指南にまつわる女性像が、いちいちパーソナルな経験のレベルでぶしぶし胸に刺さってきて、言いようのない共感を覚えてしまったから、困った。ある意味、逆恨み的な私怨ととらえられても仕方ない感情だけど、ボクの中の女性像がそこそこ歪んでいることを、無理やり意識の上に引き出されてしまった気がした。

 『女性は別の種の生き物であるかのように、男性に理解できない時がある。』
 確かに、ボクもそう思う時がある。

 たぶん、世の大勢の男どもが、シンキロウ元首相のように、女性に対してハッキリと口にできたらイイなと思っていることがいろいろあるけれど、言わぬが花とばかりに口ごもっているだけなんじゃないかな。いや、これも勝手な思い込み。ボクの偏見に過ぎないか。



 恋愛は、たぶん理屈じゃない。
 きわめて本能的に互いを欲することだと思うが、時代が進むにつれて、理屈が本能をどこかカラダの隅に追いやるかのように、素直に恋愛感情を表現するのが難しくなってきている気がしている。
 それもボクの思い込みかも知れないけれど。
 コミュニケーションの困難な時代。若い層の人たちが、恋愛や結婚をコスパ悪いと面倒くさがる時代。

 1000年以上も後世の子孫の時代には、星新一さんのショートショートじゃないけど、マジで恋愛感情の枯れたその時代の人々に政府が何とかして本能を呼び覚ませ、子孫を残すための営みを行わせようとするプロパガンダが推進されているかも知れない。

 とは言え、子孫のセリフからは、むしろ時代を越えてもなおかつ、男が女を理解することに一定の困難さを覚え、素直に恋のアプローチができないことを悩んでいる状況が見て取れる。男と女の恋愛事情は、いつの時代も不変で普遍的な課題を抱えているモノ、ということなのだろう。それも、一方的な男目線からのアプローチの話だから、情けないことに、1000年経っても男がまったく成長できてない、そんなカンジなのかな?



 最後はまるで、『女性が国家のリーダーになったら国家間レベルでマウンティングの取り合いをし、衝動的に核のボタンを押し合って世界が破滅するだろう』と、言わんばかりの未来をご先祖様が示唆した途端、本当に世界の終末が訪れ(たと思われる描写で)物語が終わる。

 その示唆されたことに納得するに足る、局地的な経験を持ち合わせているだけに、ボクには笑えないエンディングだ。

 「そのとおりだね」と、思う人。「そんなことは無いだろう」と、思う人。

 個人の恋愛レベルの話であるうちは、「まぁ、そういう女性も居るわね」で済ませられるけれど、世界の破滅までハナシが行っちゃうと、「男だったらどうなの?」とか、「理性的にふるまう女性リーダーも多いけど?」とか、いろいろ広げて考えさせられるね。

 案外、深い作品だと思う。


●監督:小原正至