一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

しあわせのマスカット

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

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映画『しあわせのマスカット』公式サイトより引用

 (2021日本)

人を笑顔にするために、私は夢に進む。
岡山を舞台に果実和菓子に出会った少女が奮闘する感動のドラマ

 北海道から岡山に修学旅行で来ていた女子高生の相馬春奈(福本莉子さん)は、岡山の名産であるマスカット・オブ・アレキサンドリアを病床のおばあちゃんのお土産にしようとしていたが、財布を落としてしまう。手元に残っていたお金で買える金額ではなく、諦めかけた時に目に入ったのが、そのマスカットを使った果実和菓子「陸乃宝珠」だった。たった一つだったが、その和菓子をお土産に買って病床のおばあちゃんを喜ばせたことをきっかけに、春奈はこの和菓子を作った会社に就職しようと考える。だが、面接に遅刻してしまい不合格になるものの、社長の田岡(長谷川初範さん)の一存で入社することになった。

 自分がデザインした和菓子を作ることを目標にしていた春奈だったが、配属されたのは会社と提携しているぶどう農園だった。園主の秋吉伸介(竹中直人さん)は仕事に厳しく頑固で、手伝いに来た春奈を冷たくあしらうが、彼女はそれにもめげず認められようと頑張り、次第に距離が縮まっていく。そんな中、伸介の妻よし(土屋裕子さん)から、10年前に事故で亡くなった息子のマスカット園を守り続けていたが、それを整理した上でマスカットの生産をやめることを聞く。

 近所に住む若手農家の屋敷達也(中河内雅貴さん)と知り合った春奈は、そのビニールハウスを教えてもらい、なんとか存続させることを伸介に話すが、拒否された上に明日からこないように宣言されてしまう。
 落ち込んだ春奈は、彼女に会いにやって来た姉の雪絵(本仮屋ユイカさん)からも察せられ、実家に帰って来るように言われ、退職を決意する。
 そんな中、西日本豪雨による未曾有の大水害が起こった・・・

(映画『しあわせのマスカット』公式サイト「Story」より引用)

shiawasenomuscat.com


 岡山県に住んでてもマスカット・オブ・アレキサンドリアは、「一生のうちに一回食べたかな?」くらいの記憶しかないシロモノ。
 高級贈答品のイメージだし、そもそもスーパーに並ぶことがないワケで、自分の生きざまに限りなくクロスしない食いモノだ。
 そんなマスカットを栽培する農家に派遣された、和菓子屋の新人社員・春奈が奮闘する物語。


 マスカット農家のワケありオヤジ・秋吉伸介役を竹中直人さんが演じている。
 けっこう竹中さん、こういう役どころで、時折余計な力が入ってイキリ気味になる印象だったのだけど、今回はなかなか抑えが効いてて、渋い演技に徹していた。すごく良かった。
 あと、正直言って、竹中さんの岡山弁が、「まぁギリ合格ラインかな?」って思ったくらい、他の出演者の岡山弁が、土地の雰囲気を出し切れてなかったと感じた。


 主演の福本莉子さんは、まだまだかなぁって思ったなぁ。
 卒なく演じてるけど、まだ彼女なりの個性=輝きを放つまでに至ってない印象。
 声に、ひ弱さを感じるところが、けっこう損してる気がする。
 『映像研には手を出すな!』では、ちょっとヤンキー入った役どころで、けっこう声張り上げてたけどねぇ。

 あと、脚本のせいか演出のせいか、相馬春奈のキャラが、イマイチ受け入れにくかったのが残念。
 あまりにも、自分の思いが走り過ぎてて、周りが見えてなさ過ぎてて、無自覚な自己チュー過ぎてて、「そんな人、実際居てるんかしら?」って思った。
 イチバン気になったのが、太郎のブドウ農園に行くのに、若手農家の屋敷達也の軽トラに乗っていくことになったくだりの、春奈の反応。なんなんだろう? 自己チュー過ぎて、お礼の言葉もなければ、乗せていくのが当然みたいに薄い反応で助手席に乗ってしまう。このあと、秋吉に手伝いを許されて、同じく軽トラに乗るよう促されたときも、そうなるのが当然みたいに思ってたんじゃないかと思わされるくらい、シレッとした薄い反応で乗り込む。何日も通ってつっけんどんに追い返されてたのに、そういうときって、ひとまず喜んだり、感謝を伝えたりせんもんかねぇ?
 でも、そんなちょっと無礼とも思えるような部分も含めて、同期女子曰くの〝オオモノ〟ちゃんなのかも知れない。
 確かに物怖じせず、ド厚かましく他者にアプローチしていく根性は、大したものだ。大したものだとは思うけど、喋ってる事柄が、とことん自分本位の考えをお披露目してる痛さに気づけない青さもあって、見ていて冷や冷やする。
 最終的に周囲を巻き込み、動かすことになったのは、若さゆえのひた向きさの成せる技か?

 だけど、故人の気配を感じる、みたいなオカルトっぽい展開は、御免蒙りたいにゃ^^;



 最後に。
 平成三十年豪雨から約3年。
 災害復興を描くのが目的の映画ではないとは言え、災害に触れるんだったら、もうちょっと丁寧に踏み込んだ描き方してほしかったかなぁ。
 上空からの衝撃的な映像だけ、不意に見せられたのは、辛かった。
 水が引いたあとも、あの夏は連日ドピーカンの猛暑日続きで、被災地の片づけ作業は、炎天下に全身焼き付けられながら、カラッカラに乾いた土砂・ガレキが粉塵になって舞い上がって、臭いし息も苦しいし目も痛いし…いつ終わるとも知れない作業をコツコツこなしていくしかない、ひたすら辛抱我慢の日々だったワケで、そんな日々に苦しめられた、あの恨みがましい太陽の光と熱を、農園の片づけ作業のときに全く感じられなかったところに、なんか嘘臭さを感じてしまったのが、どうにもやるせなかった。
 まだ、被災地は復興半ば。生活基盤が不安定なままの人たちもいらっしゃるし、被災地域の方々は、この映画を観たとき、どんな思いを抱くんだろう。
 主人公のキャラのように、前向きになれるのならイイのだけれど。


※残念だけど、予告編の方が、出来がイイ^^;かも…

www.youtube.com

●監督:吉田秋生 ●脚本:清水有生 ●音楽:遠藤浩二