一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

茄子 アンダルシアの夏

私的評価★★★★★★★☆☆☆

茄子 アンダルシアの夏 [DVD]

 (2003日本)

 スペイン・アンダルシア地方---ピレネー(山脈)から向こう(南)はアフリカだ、と揶揄される自転車乗りには過酷な気候と地形の彼の地で、世界3大自転車レースの1つ“ブエルタ・ア・エスパーニャ”が行われていました。地元アンダルシアの村の出身者であるペペ・ベネンヘリは、パオパオ・ビール・チームの一員としてギルモアとともにレースに参加していました。今シリーズ未勝利のぺぺは、スポンサーの要望に応え、ギルモアに勝たせるため集団から抜け出してレースを引っ張ることになりますが、その最中に監督との無線で、スポンサーからの解雇通告を聞いてしまいました。奇しくもこの日、彼の村ではぺぺの兄アンヘルとぺぺのかつての恋人カルメンの結婚式が行われていました。クビになった虚しさと兄に恋人を奪われ、自転車レースのプロになった昔を思い出しながら、ぺぺは「遠くへ行きたいんだ」と、ただただこのレースでの使命を果たすことに集中していきました。ところが、一匹の黒猫が道をよぎったとき、事件が起こったのです…。


 自転車レースは見たことなかったので、ルールだとか、駆け引きだとかには全く疎かったのですが、ゴールまで残り40分ほどのレースのリアルな展開に、ついつい引き込まれてしまうほど、面白かったです。横殴りの砂塵や峠の長い上り坂のシーンでは見ている方まで息苦しくなるし、ゴール直前のラストスパートで顔を歪めて乳酸貯めまくるペダル漕ぎのシーンでは、タッチを漫画チックにデフォルメして緊迫感を煽って見せてくれました。47分という短い時間にレースのエッセンスがコンパクトに凝縮されているのが、ケレン味がなくてイイですね。アンダルシアの夏の風景や、村のバーの人々を描いた画面もビビッドで美しいです。

 レースを中心に描くため、レース以外のエピソードを極力コンパクトに切って、レースの緊迫感を殺がないように気配りされていると思います。兄や元恋人に対してぺぺが抱いているコンプレックスみたいな屈折した心情を、下手にベラベラ語って見せないところが、スマートでカッコいいですよね。ストーリー自体は予定調和的なエンディングを迎えますが、それでも、なんかホッとしてしまいます。ぺぺが前向きに明るく再生していくエンディングは、見終わったあと、じんわり心に沁みる感じがあり、なかなかイイですよ。

 ところで、茄子はアンダルシアの名産なんでしょうか? バーのオヤジが茄子の漬け物かなんかを出してくるシーンがあり、ぺぺも最後にその漬け物を丸カブりします。アンダルシア風、どんな味なんでしょうね?

●監督:高坂希太郎 ●原作:黒田硫黄(コミック「茄子」)