一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

犬部!

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

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映画『犬部!』公式サイトより引用

 (2021日本)

生きているものはみんな助ける、犬も猫も。
それが
犬部!

犬たちを幸せにしたい!
一つの想いを抱いた仲間たちは、それぞれの道へ⸺
ずっと心に“犬部”を抱いて。16年にわたる人と動物の心を描いた感動ドラマ

青森県十和田市に、一人の変わり者がいた。花井颯太(林遣都さん)22歳、獣医学部の大学生。子どもの頃から大の犬好きで、一人暮らしのアパートには保護動物がぎっしり。周りからは変人扱いされても、目の前の命を救いたいという一途な想いで保護活動を続けていた。ある日颯太は、心を閉ざした一匹の実験犬を救ったことから、ひとつでも多くの命を救うため、動物保護活動をサークルにすることを思いつき「犬部」を設立。颯太と同じく犬好きの同級生・柴崎涼介(中川大志さん)らが仲間となり動物まみれの青春を駆け抜け、それぞれの夢に向かって羽ばたいていった。颯太はひとつでも多くの命を救うため動物病院へ、そして柴崎は動物の不幸な処分を減らすため動物愛護センターへ⸺。
「犬部」から16年後。獣医師となっても一途に保護活動を続けていた颯太が逮捕されたという報道をうけて、開業医として、研究者として、動物愛護センター所長として、それぞれの想いで16年間動物と向き合ってきたメンバーたちが再集結するが、そこに柴崎だけがいなかった……。

北里大学獣医学部に実在したサークル「犬部」に迫ったノンフィクションを原案とし、三度の飯より動物が好きな獣医学生たちが、命を守るため青春を駆け抜けた、未来へつながる物語

(映画『犬部!』公式サイト「Story」より引用)

inubu-movie.jp


 ある意味、ほんわかした雰囲気のチラシに完全に騙されました。

 期待してたのは、佐々木倫子さんの描いた漫画〝動物のお医者さん〟みたいな、ちょっとトボけた獣医学部の学生たちの青春群像ドラマ、みたいなカンジだったんだけど、実際はコメディタッチを織り交ぜつつも、保護犬を取り巻く様々な問題を提示して見せる、なかなか重いテーマの映画でしたねぇ。

 う~む……昨年からの新型コロナ禍の中で在宅時間が伸びる中、お手軽にペットを飼い始め、お手軽に手放す人たちのニュースを何度か目にしたけど、そうした犬猫の命を軽く扱ってしまう人たちに対する問題提起としては、アリかなとは思ったんだけど……いかんせん、ドラマ的な面白みがなかったです。

 実際、ボク同様にチラシの雰囲気に騙されてお気軽に劇場に入り、「思ってたのと違う」と戸惑った人はけっこう居るような気がしたし、保健所の動物愛護センターで、1日ごとに檻を移され、最後は殺処分のためガス室に追いやられる犬たちの映像を見せつけられると、少しでも犬に思いを寄せる人なら、かなり胸が締め付けられると思うので、軽々しくペットを飼うことの罪深さを知らしめる多少の効果はあるようには思いました。

 しかし、登場人物の描かれ方が、すごく浅い。薄っぺらい。感情移入させてもらえない。

 そのせいか、重いテーマにもかかわらず、表面だけ軽くなぞって並べて見せて、駆け足で通り過ぎたような印象が残りました。


 花井颯太は、学生時代から一貫して、自分が関わる『全ての犬猫の命を救う』という志を掲げて奮闘し続けていて、獣医師として開業したあとも、無償で犬猫の保護活動に関わるような超ポジティブ・シンキングな人物なので、彼を主人公として据えてしまうと、ドラマのトーンが一本調子に映ってしまうんですよね。

 他方、犬部立ち上げ時の同志だった他の3人は、それぞれ違ったアプローチで動物の命を守ろうと奮闘しているんですが、例えば大学の研究室で動物用のワクチンの研究開発に長年取り組み続けるも、思うように成果がでなかったり、動物の保護を頑なに拒む獣医師の父の下で働きながら、動物の保護活動に取り組めない自身の不甲斐なさに落ち込んでいたり、それぞれが現在進行形で挫折や悩みを抱えているワケです。

 特に「殺処分される犬をゼロにする」ことを志して動物愛護センターの所長にまでなった柴崎は、頑張っても頑張っても、不幸な処分を受ける犬たちが絶えることのない日々が続くことに心を痛め、ついには自ら背負った業に押しつぶされそうになってしまうのですが…。

 花井を含め4人の犬部創設メンバーの中で言えば、柴崎が一番深いドラマを持っているのに、花井を主人公に据えて彼の目線でストーリーを回しているから、柴崎の情報は田中麗奈さん演じる動物愛護センター職員からの伝聞しかなくなり、ボクらはその伝聞を再現する短い映像だけで柴崎の苦悩を垣間見ることになってしまってるんです。

 がぜん、柴崎の描かれ方は、短く、薄くならざるをえず、何とももったいないと感じたところ。

 正直、田中麗奈さんを、あんなに唐突に登場させ、柴崎のことを花井に伝えるためだけに使うなんて、それこそもったいなかろうモンと言うことで、どうせなら、動物愛護センターの職員である田中麗奈さんが、柴崎のことを語り出すところから描き始め、そこから柴崎目線で花井を、学生時代から回想するように描いた方が、より立体感のあるドラマになったんじゃなかろうか、と思ったりしたワケです。

 そうすれば、日々積み重なっていく柴崎の苦悩の深刻さは、もっと深く描け、より深く胸に突き立ってきたように思うし、花井の能天気なまでに楽観的な立ち居振る舞いとの対比も際立って、ドラマにも深みが出たんじゃないかな、なんて勝手に思ったりしました。


 篠原哲雄さん、けっこう好きなんだけどな。

 なんか観終わった後、スッキリしなかったんだよなぁ。

 うん、肚の底に、なんか重しがたまったような、そんな不快感かな?

 惜しい……。



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●監督:篠原哲雄 ●脚本:山田あかね ●原案:片野ゆか(ノンフィクション『北里大学獣医学部 犬部!』/ポプラ社