一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ナビィの恋

私的評価★★★★★★★☆☆☆

ナビィの恋
ナビィの恋 [DVD]

 (1999日本)

 東京から帰ってきた奈々子(西田尚美さん)の乗った船に、白いスーツに身を包んだ“でーじカッコいいおじぃ”が同乗していました。港でおじぃの恵達(登川誠仁さん)とおばぁのナビィ(平良とみさん)に迎えられ、軽トラの荷台に乗ってふたりの家に向かう奈々子に、バックパックの青年・福之助(村上淳さん)が軽く手を挙げてあいさつをします。そして先ほどの白いスーツのおじぃが歩いて行くのを見かけると、助手席のナビィが驚いたように彼の姿を振り返るのでした。60年前、ナビィと白いスーツのおじぃ・サンラー(平良進さん)は大恋愛の末、仲を引き裂かれ、サンラーは島を追放されていたのです。「必ず迎えに来る」と別れ際に交わした約束を果たすため、サンラーはブラジルから帰ってきました。そして、サンラーと別れて恵達と結婚していたナビィでしたが、サンラーと再会して大きく心を動かされ始めていたのです。


 沖縄の離島を舞台に、生きること、愛することのとても生々しくも純粋なお話を大らかに表現しています。セリフや替え唄の歌詞がちょっとエッチな感じもしますが、これくらい平気に口にして笑い飛ばせる大らかさが、うらやましいですね。
 60年ぶりに会ったサンラーに心を奪われてしまうナビィ、そして彼女の気持ちを痛いほどよく知っている恵達の関係が、見ていてどうしようもなく切なくなります。ナビィが駈け落ちすることに気づいていながら、黙って見送った恵達のやさしさには、同じ男として胸が張り裂けそうな痛みを感じました。でも、決して切なさを引きずらない、むしろ次の世代(奈々子と福之助)が生きて子をなす、人の根源的な営みを全面に押し出すことで、スケールの大きいお話にしています。ブルーな気持ちに浸らない、それが本作のイイところかもしれません。

 本作のDVDにはミュージック・チャプターが切ってあるほど、音楽に特色があります。というか、ミュージッククリップの合間にドラマがあるような雰囲気もあります。沖縄音楽がもちろん中心なんですけど、中にはアイルランド演奏家の奏でるケルト音楽やオペラ歌手の歌う“カルメン”など、およそ場違いと思えそうな演奏シーンが多々挿入されています。これが意外とマッチしているのには、驚かされます。沖縄音楽では、三線の名手・登川誠仁さんの演奏や歌声、特にしゃがれて渋い声音を聴くと、思わず涙がでそうになるほど、魂を揺さぶられます。ええ声の人はうらやましいですね。軽く弾いて替え唄を口ずさむのもオシャレでいいなぁと思います。

 見終わったあと、何やらじんわりと沁みる感じのする、良作ですね。

●監督:中江裕司