一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

夕陽のあと

私的評価★★★★★★★★★★

f:id:vgaia:20200118015018j:plain
映画『夕陽のあと』公式サイトより引用

 (2020日本)


 母親であることを手放した女と、母親になると決心した女
 ―――夕陽に染まった海原の向こうに、ふたりの願いが交差する

 鹿児島県の最北端、青い海に囲まれた長島町。佐藤茜(貫地谷しほりさん)は一年近く前に都会からこの島に一人でやって来て、港の食堂で働いている。溌剌とした働きぶりで島の人々に人気の茜だが、自身について語ることはほとんどなく、謎に包まれた存在だ。

 一方、島で生まれ育った日野五月(山田真歩さん)は、家業のブリの養殖を継いだ夫の優一(永井大さん)、義母のミエ(木内みどりさん)、7歳になる里子の豊和(とわ・松原豊和さん)と平穏に暮らしている。五月はかつて不妊治療を行なっていたが、心身と家計に多大な負担がかかったために断念。幼馴染で町役場の福祉課に務める秀幸(川口覚さん)の紹介で、児童相談所から当時赤ん坊だった豊和を預かり、養育してきた。最近やっと生活が安定したことから、日野夫妻は豊和の戸籍上の親になるべく、特別養子縁組の申し立てを行う。

 特別養子縁組が家庭裁判所で認められるためには、養子となる子どもが8歳未満であること*1、生みの親の同意が得られていることなど、いくつかの要件がある。豊和の場合、親権は生みの親ではなく児童相談所が持っていることもあり、手続きはスムーズに進むかに見えた。しかし五月たちは準備を行う中で、思いもよらぬ事実を知らされる。なんと豊和は、7年前に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件の被害者だったのだ。そして懲役1年執行猶予3年の判決を受けたという豊和の母親の名は、佐藤茜だった。
(映画『夕陽のあと』公式サイト「ストーリー」より引用)

yuhinoato.com


 こういう作品に出会うと、★10個付けるのが難しくなってしまうなぁ。
 ★10個じゃ足りないくらい、すばらしい作品でした。


 貧困と孤独に苛まれ、生後わずかの乳児を育てることができず、泣く泣く親権を児童相談所に委ねるしかなかった実の母親・茜と、その子を乳児のころから愛情たっぷりに養育してきた里親・五月の互いに引くに引けない、譲るわけにはいかない親心のぶつかり合いが見どころでしょうか。
 とにかく、とことん、安易な妥協を見ない徹底した実母・養母ぶりに、ひたすら感心し、アツく胸を打たれ続けます。
 実の親と育ての親の相克という、テーマ的には古典的なストーリーですが、そこには島の過疎化や少子高齢化問題、DVや乳児遺棄の問題、不妊治療や特別養子縁組制度の問題など、現実に身近で起こりうるさまざまな問題をさり気なく取り込みながら、二人の母親の心情の移ろいや子どもとの接し方をはじめ、周りの大人たちの気持ちや行動など、登場人物たちの心の機微を実に丁寧に時間をかけて描いています。
 そして実母と養母、それぞれの凝り固まった感情を丁寧に解いていく過程を、非常に繊細なタッチで描いて見せてくれ、ともすればギスギスしてしまいそうなお話を、逆に温かいキモチにさせてくれたのが、非常に良かったです。
 もう、なんだか、最後の方で豊和が起こした行動と言葉に、どぶぅわっと涙腺崩壊したら、もう涙だだ漏れになって止まりませんでした。

 長島町の町おこし的な映画でもあるんでしょうけど、とにかく島の方々の子育てに対する考え方がステキすぎて、めちゃめちゃ長島町の印象↑↑↑上昇しました。
 そこらに絡めて、大岡裁きもかすむほどの見事な落とし方、すばらしい。


 最後に鳴り響く太鼓のリズムは、豊和の茜に向けたはなむけだったのでしょう。
 胸にジーンと残る深い余韻。
 感動で、すぐには席を立てませんでした。

 すばらしい映画に出会えた、今日という日に深く感謝。



 昨年11月18日に69歳で急逝された、木内みどりさんが出演なさっていました。まだまだお若いのに、と思う一方、こうして亡くなる直前まで出演していらした映画が劇場で上映され、作品として記録に残り、またいつまでも多くの方の記憶に残る、そうした俳優という職業のすばらしさを改めて実感しました。謹んでご冥福をお祈りいたします。


●監督:越川道夫 ●脚本:嶋田うれ葉

*1:通常は6歳未満だが、6歳に達する前から養親となる人に監護されている場合は8歳未満まで。他の成立要件として、養親となる夫婦の少なくとも一方が25歳以上でもう一方が20歳以上であること、6ヶ月以上監護されていることなどがある。