一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

クイール

私的評価★★★★★★★★☆☆

クイール [DVD]

 (2003日本)

 水戸レン(名取裕子さん)は、ラブラドール・レトリバーの5つ子をぜひ盲導犬にしたいと思い、訓練所の多和田(椎名桔平さん)に何度も電話します。盲導犬は血統が大事な要素だからと断り続けた多和田も最後にはレンの熱意に負け、1匹だけ引き取ることを約束しました。仔犬はパピーウォーカーの仁井夫妻(香川照之さん・寺島しのぶさん)の元に預けられ、クイールと名づけられます。クイールは1歳の誕生日を迎えるまで、人間との信頼関係を築くべく仁井夫妻に大切に育てられました。そして1歳の誕生日が来ると、多和田の訓練所に引き取られ、盲導犬としての訓練が始まります。やがて、多和田は盲導犬を拒否し続けていた渡辺(小林薫さん)に、クイールのパートナーになるよう勧めました。


 実話を下敷きにしたストーリーなので、特別盛り上がるでもなく淡々とお話は語られていきます。語りは渡辺の長女の美津子(櫻谷由貴花さん)と仁井夫人(寺島しのぶさん)のリレーだと思いますが、美津子(生まれてパピーウォーカーに預けられるまで)−仁井夫人(パピーウォーカーのおうちで)−美津子(訓練所から11歳になるまで)−仁井夫人(パピーウォーカーのおうちで)という流れに、ちょっと釈然としない部分があります。渡辺家の家族のエピソードが少なくて、特に語りの美津子の存在感が極めて薄いのが気に入らないのです。ま、でも、犬好きにはたまらないお話なのではないでしょうか? ちょっとおとぼけ気味のクイールの表情に、とても癒されます。

 渡辺が入院して3年あまりの月日、クイールは訓練所に戻り、小学校などで盲導犬のデモンストレーションなどをします。しかし、訓練所ではとても寂しそう。やがて、懐かしい白杖のコツコツという音が訓練所に響くと、クイールは嬉しそうに吼えました。愛しい渡辺との再会、しかし、渡辺との歩みはわずか30mで中断、永久の別れを迎えることになります。

 渡辺の告別式でクイールを連れた多和田の言葉に、大泣きしました。

「渡辺さん、ダメだよ。犬より先に逝っちゃあ…」

 1年半前、動物好きの父に犬を飼ってやろうと思ったとき、考えたことがありました。仔犬の寿命と、父の余生、どちらが長いだろうか、と。心の琴線にぴんと触れました。

 そしてクイールは、渡辺の死後は盲導犬になることもなく、11歳になってパピーウォーカーだった仁井夫妻に引き取られ、12歳と25日という生涯を終えました。もう、ダダ漏れで泣きました。自分ちの犬のことと重ね合わせてしまい、恥ずかしながら、しゃくりあげるようにして泣きました。決して犬好きではないんですが、うちの犬も可愛がってやろうと思いました。

●監督:崔洋一