一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

木曜組曲

私的評価★★★★★★★☆☆☆

木曜組曲
木曜組曲 [DVD]

 (2002日本)

 4年前に謎の服毒死を遂げた大女流作家・重松時子(浅丘ルリ子さん)を偲んで、毎年彼女の命日前後の木曜日をはさむ3日間を、彼女の屋敷で過ごす5人の女性がいました。時子の同居人で彼女の担当編集者であったえい子(加藤登紀子さん)、時子の異母妹でエッセイストの静子(原田美枝子さん)、時子の姪でミステリー作家の尚美(富田靖子さん)、尚美の異母姉妹で純文学作家のつかさ(西田尚美さん)、静子の従姉妹でノンフィクション・ライターの絵里子(鈴木京香さん)です。彼女たちは生前故人が催していた木曜日の晩餐会を続けることで時子を偲んでいたのですが、今年の偲ぶ会には見知らぬ人物からカサブランカの花束が送られてきました。花束に添えられたカードには「皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のための花を捧げます。フジヒロチヒロ」と。ほどなくフジヒロチヒロが時子が最後に書いた作品の登場人物の名であることが分かりますが、実は5人は時子の死に対し、少なからず割り切れないモノを感じていたのです。静子が晩餐会の中で口を開き、5人それぞれが抱く疑惑や疑問が提示され、時子の死が、果たして自殺だったのか他殺だったのか、他殺だったとしたら犯人はいったい誰なのか、5人5様の結論が導き出され、披露されていくうちに、ある真実が浮かび上がりました。しかし、果たしてたどり着いた結論は真実なのか…?

 恩田陸さんの小説は読んだことないんですが、NHKでやっていた“六番目の小夜子”を見たとき、「ミステリーの枠をはみ出しているな」と感じていました。本作は別の意味でミステリーの枠をはみ出しているかもしれません。5人の語りからさまざまな事実が浮かび上がっては消え、二転三転し、振り出しに戻り、そしてやっと真実らしきモノにたどり着いたと思ったら、それも実は綿密に仕掛けられたワナのうちでしかなかった…これだけ見ればミステリーの醍醐味ですが、この作品は“余韻”が長いのです。生前の時子の言葉に「私は名を残したいんじゃないの。余韻が残ればいいの」というようなセリフがあります。ネタバレすれすれで言うなら、時子の生前の思いの強さ、執念と言ってもいいかも知れません。その執念の余韻が4年後の晩餐会で、そしてその晩餐会が終わったあとまで、じんわりと続いていくような気分にさせられるのです。

 時子の屋敷の食卓を中心にグランドホテル形式で繰り広げられる5人の女優さんの、しびれるような演技に酔います。言葉の端々、目線、表情、間合い、溜息が出そうです。生前の時子とえい子のやりとり、不思議ですが、知らず知らずのうちに大女優ふたりの貫禄に圧倒される自分がいます。篠原哲雄監督の演出、相変わらず細かいところまでよく考えてるな、という感じです。

 エンド・クレジットで流れる曲がちょっと違和感覚えましたが、Roller Coasterの曲と分かって、ちょっと驚きました。韓国のAOR路線のポップグループです。5年ほど前に買ったアルバム、カッコいい曲が並んでいて感心したのを思い出しました。こんなとこでも韓流ですか?

●監督:篠原哲雄 ●原作:恩田陸(小説「木曜組曲」)