一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ゼロの焦点

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

ゼロの焦点(特典DVD付2枚組)<Blu-ray>

 (2009日本)

 禎子(広末涼子さん)は、夫の鵜原憲一(西島秀俊さん)と見合い結婚して7日目。結婚を機に憲一が、東洋第一広告金沢出張所主任の身分から東京本社に栄転することになり、事務引継ぎのため後任の本多(野間口徹さん)とともに金沢へと最後の出張に出かけた。東京駅で憲一を見送った禎子は、よもやそれが夫との最後の別れになるとは努々思ってもみなかった。数日のうちに帰京するはずの憲一が、行方不明になってしまったのだ。憲一の行方を突き止めるため、禎子は金沢に向かうが、金沢の憲一の住まいを会社の誰も知らないことが分かり、ついに警察に届けることになる。禎子は、金沢で憲一が家族ぐるみで昵懇にしてもらっていたという室田耐火煉瓦株式会社の社長・室田儀作(鹿賀丈史さん)と後妻の佐知子(中谷美紀さん)を訪ねるが、応対に出た受付の女性社員・田沼久子(木村多江さん)が使うスラングまじりの実地の英語が気になる一方で、憲一の行方の手がかりは一向につかめないままだった。たった7日間しか夫との付き合いがない禎子は、憲一の過去を調べることにする。その矢先、京都への出張の便に金沢へ立ち寄った憲一の兄の宗太郎(杉本哲太さん)が、温泉旅館で毒殺されるという事件が発生した。宗太郎の葬儀のため一旦帰京することにした禎子は、旅館から消えた派手なコートの女性が気になり、本多に田沼久子のことを調べるよう依頼する。田沼久子は宗太郎の死のあと出社しておらず、久子の居宅を訪ねた本多まで刺殺されてしまった。憲一の失踪と宗太郎・本多の死、そして田沼久子の失踪には、どんな関係があるのか? やがて、禎子の知らなかった憲一の過去から、意外な事実が次々と明らかになって…。


 原作者の松本清張さんの生誕百周年を記念して、電通さんが仕掛けた1961年版『ゼロの焦点』のリメイク。実は、劇場公開当時に、珍しく見に行ってるんです。

 平成も20年も経ってから、昭和30年代を再現するのは大変でしょうね。VFXは一部使われていますが、韓国でロケが行われたそうです。屋内のセットでの撮影は、けっこう昭和感出てますが、全体を通してみると、どこかしら平成の舞台の上で、作り物のエセ昭和が浮いてしまってる、そんな印象は拭えません。
 どうでもよい脱線話ですが、リメイク版でも、蒸気機関車日本海を臨むルートを走るシーンが出てきます。金沢駅でアップになった路線の表示を見ると『信越線』を経由するルートのようで、それなら日本海側を走っても不思議ではないのでしょう。昭和32〜33年ごろの設定で、原作とほぼ同時代のようですが、1961年版の方が、少し時代が前の設定なのでしょうか?

 犬童監督らしく、登場人物の描写、3人の女優さんのキャラの描き分けはけっこう深くてイイと思います。特に中谷美紀さんの演技が怖いほどキテました。ある意味、ホラーじみてますw なぜか幸薄い役の多い木村多江さんのはまり具合も、安心の配役。広末涼子さんは、がんばっていたとは思うんだけど、ちょっと1961年版久我美子さんに比べて、主役感が薄い取り扱われ方だったかな? モノローグがやたら多いんだけど、か細く甲高い感じの声質が、個人的にあんまり好きじゃないんですよねぇ。それに、モノローグの多さが説明的過ぎて、ストーリーの緊迫感を殺いでいる感じがして、この辺の脚本・演出はあまり良くなかったかな、と感じます。とかく、平成の今は、テレビドラマも説明が多すぎて、見る者に一通りの解釈しか許さず、ほとんど考えさせる余地がない気がしますよね。雁字搦めの法律の条文みたいで、味気ない感じです。

 鹿賀丈史さん室田儀作のキャラが1961年版加藤嘉さんとすっかり変わっていて、驚きました。力づくで事業を推し進めるような傲岸不遜なタイプのキャラですから、妻への愛は、素直に表現されません。それゆえか、クライマックスでは悲惨な結末を迎えるのですが、もうこのへんの件、脚本がかなり雑な気がしました。

 室田佐知子の弟・鳴海享(崎本大海さん)は、何なんでしょう? 原作には登場するんですかね? この方の役どころも、なんか説明するためだけに配された感じで、よく分からなかったです。最後には、彼が描いた佐知子の肖像画が映し出されたりして。なんか、ね。

 クライマックスで、禎子が「あなたは私の夢を奪った」というセリフ。微妙に共感しづらいんですよねぇ。相手のことをよく知らないまま見合い結婚して1週間しか一緒に過ごしていない夫に対して、プラターズの『オンリー・ユー』に乗せて熱く涙を流すほど思い入れがあるのかなぁ、と。そんなの、逆に何も知らないまま突然失ったから、一時的に気持ちが高ぶって持っていかれてるだけなんじゃないかなぁ、と。

 クレジット・ロール中の中島みゆきさんの歌も、唐突感たっぷりで、邪魔臭いです。こういう意味不明なタイアップ、大嫌いなんですよね。歌詞なしのBGMでクレジット流して欲しかったな、と。

 冒頭は、戦時下の学徒出陣の実写映像で始まり、戦場で戦死した兵士の亡骸などが映し出されます。タイトルバックでは、戦後のさまざまな新聞記事や動画など、時代を映し出すトピックスが次々と表示されます。本編は昭和30年代初め。最後のエンド・クレジットでは新幹線が登場し、手をつないだり腕を組んだりしながら街を歩くカップルたちなどの映像が流れ、現代まで時間が進んで終わります。言いたいことは、分かるような気もしますが、平成の今、リメイクするにあたり、あまりにも時代背景が違いすぎるための、説明的な映像の付け足しのような気がして、なんだか説教臭い印象を持ちました。しれっと昭和で終わってくれて良かったんだけどな。

 と、まぁ。登場人物の熱演が素晴らしいのに、なぜか、いや、それゆえか、たらたらとダメ出ししてしまいましたが、ドラマとしては、見応えあると思います。ただ、比較してしまうと、1961年版の方が、シンプルで好きかな?


●監督:犬童一心 ●脚本:犬童一心、中園健司 ●原作:松本清張(小説「ゼロの焦点」/光文社ほか)