さよなら、クロ
私的評価★★★★★★★★★☆
(2003日本)
4800人の青春を共に生きた世界一幸せな犬の物語。
秋津高校にさまよいついた一匹の野良犬。文化祭の当日に起きた悲劇を救ったのはその犬だった! 亮介(妻夫木 聡さん)のクラスの出し物、西郷隆盛像の犬役にひっぱりだされ、クロと名づけられ、そのまま学校に住みついてしまう。クロは学校を自由に闊歩し、生徒たちに見守られながら寄り添うようにそこにいた。3年生の亮介と孝二(新井浩文さん)は無二の親友で雪子(伊藤 歩さん)をめぐるライバルでもあったが、受験を間近に控えたある日、そんな3人の友情関係が崩れてしまう事件が起きる。やりきれない思いの雪子を救ったのはクロだった…。10年後、獣医になった亮介はクラスメートの結婚式で帰省し、雪子に再会。そしてクロの病気を発見する。その時在校生賢治(金井勇太さん)たちのとった行動は…。
(DVDパッケージより引用)
1961年(昭和36年)から長野県の松本深志高校に実在した犬・クロの物語。
構内を自由に歩き、守衛さんの夜警に付き添い、職員会議にも出たコンパニオン・ドッグ。
クロの死が伝わると、松本深志高校でクロとともに青春時代を過ごした何千人という人々が集い、学校葬が営まれ、学校長が弔辞を送ったという。
昭和30年代~40年代の人々の倹しい暮らしぶり、木造の柔らかい雰囲気の学校や住まいの様子に、こころ和む。
女子高生の制服がスラックスなのは、寒冷地だからかしら?
この時代は、放し飼いに対して鷹揚な時代で、今どきほど厳しく取り締まられたりしなかった。
しかし、狂犬病のリスクは変わらないので、俗に〝犬捕り〟と呼ばれる業者が、野犬を捕獲して回っていた。
カラダの小さな子どもにとっては、野良犬も犬捕りのおっさんも、怖くて仕方ない存在だった。
そんな時代のお話とて、高校にふらっとやって来た犬が12年もの間、生徒や教員と一緒に放し飼いのまま自由に暮らせていたという実話は、今じゃあ〝おとぎばなし〟にしか思えないワケで。
なんとも、うらやましい時代だったと思う。
夜の教室にやってきた雪子を心配して、彼女の様子を見に来たのは、クロだった。
ほぼ鳴き声を発しないクロの表情やたたずまいが、たまらん。
犬は、大切な人の気持ちに寄り添う。
うちで飼っていた犬は、家族の誰かが体調が悪いときや気がふさいでいるときには、そっと近づいてきて、元気づけるように手のひらや顔をなめてきた。
ボクが父と大きな声でやり取りし始めると、たとえそれが口ゲンカでなくても、うちの犬は必ずボクの座っている腿に手をかけて、『もう、やめて!』というようにジッと見てきた。
たぶん、ボクと父の力関係で、ボクの方が父をイジメているとでも思ったのだろう。
賢治が牛乳を手のひらに注いでクロに飲ませている場面で、グッときてしまった。
うちの犬が、死を目前に立ち上がれなくなったときに、なんとか力づけてやりたいと願って、ボクも手のひらに注いだ牛乳をなめさせていた。
あくまで、主役は犬のクロじゃあない。
亮介と雪子と孝二の青春三角形とその10年後の人々の物語だ。
だけど、クロがいたから、この物語は10年後が語られている。
犬と暮らせる人は、シアワセだ。
幸せな人生を。
あだしごとながら…。
最後にチューリップ(財津和夫さん)の『青春の影』を流すのはずるい。
ガマンしていた涙腺が一気に崩壊した(うそ^^; とっくにクロの手術あたりから号泣しっ放しだったwww)。
でも、流すんならフルコーラスで流してほしかったな。
実在のクロは1972年(昭和47年)11月30日に亡くなっているので、1974年にリリースされた『青春の影』を、劇中で賢治が弾き語りしているのはありえないんだけどね。
●監督:松岡錠司 ●脚本:松岡錠司、平松恵美子、石川勝己 ●原作:藤岡改造/元長野県松本深志高等学校国語科教諭(小説・ノンフィクション『職員会議に出た犬・クロ』/郷土出版社刊)