一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

空の大怪獣 ラドン

私的評価★★★★★★★☆☆☆

空の大怪獣ラドン  [東宝DVD名作セレクション]

 (1956日本)

 東宝イーストマンカラー総天然色による初の怪獣映画だそうです。


 阿蘇山の北の炭鉱で巨大なヤゴ・メガヌロン*1が現れ、炭鉱で働く人々を襲う事件が発生します。技師の河村繁(佐原健二さん)は警官隊とともにメガヌロンを坑内に追いつめますが、そこで落盤事故に遭い、ひとり地底に転落します。その後、繁は崩落した阿蘇の大地をさまよい歩くところを保護されますが、記憶喪失になっていました。そのころ哨戒中の北原機の行く手に、国籍不明の超音速の飛行物体が現れ、北原機を撃墜して消えます。正体不明の飛行物体は、東シナ海で英国旅客機を撃墜し、北京、フィリッピン*2、沖縄で飛行するのを目撃されます。古生物科学者の柏木久一郎(平田昭彦さん)は、阿蘇で襲われたアベックのカメラに飛行物体の一部が映し出されていたことで、その正体を翼竜プテラノドン”ではないか、と考えます。記憶の戻った繁の証言から、坑内で翼竜の卵の欠片が見つかり、翼長270フィート*3にもなる計算結果がはじき出されます。そして、阿蘇山からようやくラドンが姿を現しました…。


 前半の炭鉱のエピソードは、暗い坑内と夜の炭鉱の町の様子がメインで、そこへどこからともなく襲ってくるメガヌロンの登場は、子どものころに見て怖かった吸血鬼ドラキュラのような雰囲気を思い起こさせました。どこか救いようのない、重苦しい雰囲気です。しかし後半、ラドンが登場して雰囲気はガラッと変わります。軽快な音楽に乗って、青い空を飛行機雲を作りながら飛行する姿など、画面自体が一気に明るくなったような印象です。このコントラストは初のカラー作品ということで、狙って作られたものだと思いますが、重苦しい雰囲気を一気に解き放つカタルシスは快感です。

 円谷英二さんの特撮には感心します。戦闘機3機とラドンの空中戦は、おそらくその後の怪獣特撮映画のお手本になっているのではないかと思います。西海大橋の破壊シーンでの逃げ惑う観光客の実写とリアルな橋のミニチュアのつなぎ方、波打つ水面や倒壊する橋の映像の生々しさは見事と言うしかありません。続く福岡市街の破壊シーンでは、ミニチュアの出来がすばらしく精巧にできており、風圧で次々と飛ばされる瓦の様子など、おそらく一発勝負という特撮がみごとに決まっています。とにかく、壊れる建物や電車などのスケール感が、抜群にいいと思います。CG合成でなんでも見せられる現代と違い、特撮現場の意気込みを感じさせるすばらしい作品です。もちろん、光学合成編集の出来もすばらしい。

 それから、警察だとか自衛隊*4だとかの衣装が、まったく見慣れない色・デザインです。電子計算機だとか無線機だとか、機器類もごつくてデカくて古めかしいです。街の看板や走っている車などにも、かなりノスタルジーを感じさせるものが次々と映ります。50年代はさすがにボクの生まれる前の時代だから、まったく記憶の埒外だな、という印象ですが、昭和前半の風景が好きなので、心動かされる映像なのです。

 ところで、ラドンは、猛獣と同じなんですね。人間と共存は難しいけれど、あえて人間の敵になるつもりもない、ただただその本能のままに生きると、人間の脅威になってしまう、という哀しい存在なのです。ですから、人間がその気になって駆逐すると、あっさりやられてしまうのです。ラドンの最期の姿*5は、どこか哀れです。

●監督:本多猪四郎 ●特技監督円谷英二

*1:44年経って“ゴジラ×メガギラス”にも登場しています。

*2:画面には“ッ”が表示されています。

*3:1956年当時はメートルよりフィートの方が一般的だったのでしょうか?

*4:作品ではハッキリとは表現されていませんが、本作の2年前に自衛隊は組織されているようなので…。

*5:実は熱で操演のピアノ線が1本切れてしまい、図らずも、はかなげな最期の様子が撮れたのだそうです。