楽園
私的評価★★★★★★★★☆☆
(2019日本)
青田が広がるとある地方都市―。
屋台や骨董市で賑わう夏祭りの日、一人の青年・中村豪士(綾野 剛さん)が慌てふためきながら助けを求めてきた。
偽ブランド品を売る母親が男に恫喝されていたのだ。
仲裁をした藤木五郎(柄本 明さん)は、友人もおらずに母の手伝いをする豪士に同情し、職を紹介する約束を交わすが、青田から山間部へと別れるY字路で五郎の孫娘・愛華が忽然と姿を消し、その約束は果たされることは無かった。
必死の捜索空しく、愛華の行方は知れぬまま。
愛華の親友で、Y字路で別れる直前まで一緒にいた紡(杉咲 花さん)は罪悪感を抱えながら成長する。
12年後―、ある夜、紡は後方から迫る車に動揺して転倒、慌てて運転席から飛び出してきた豪士に助けられた。
豪士は、笛が破損したお詫びにと、新しい笛を弁償する。
彼の優しさに触れた紡は心を開き、二人は互いの不遇に共感しあっていくが、心を乱すものもいた。
一人は紡に想いを寄せる幼馴染の野上広呂(村上虹郎さん)、もう一人は愛華の祖父・五郎だった。そして夏祭りの日、再び事件が起きる。
12年前と同じようにY字路で少女が消息を絶ったのだ。
住民の疑念は一気に豪士に浴びせられ、追い詰められた豪士は街へと逃れるが……。
その惨事を目撃していた田中善次郎(佐藤浩市さん)は、Y字路に続く集落で、亡き妻を想いながら、愛犬レオと穏やかに暮らしていた。
しかし、養蜂での村おこしの計画がこじれ、村人から拒絶され孤立を深めていく。
次第に正気は失われ、想像もつかなかった事件が起こる。
Y字路から起こった二つの事件、容疑者の青年、傷ついた少女、追い込まれる男…
三人の運命の結末は―。
(映画『楽園』公式サイト「STORY」より引用)
相変わらず、瀬々監督の作品は、激重いテーマで事件を扱ってきます。
さすがに、朝イチに観たくなる作品でもないし、深夜に観たら夢見が悪そうです。
とにかく、ほぼ全編、緊迫感で身を硬くしながら観てました。
吉田修一さんの原作本『犯罪小説集』は、〝青田 Y 字路〟〝曼珠姫午睡〟〝百家楽餓鬼〟〝万屋善次郎〟〝白球白蛇伝〟の5篇からなる小説集で、本作『楽園』は〝青田 Y 字路〟〝万屋善次郎〟を映画化したそうです。
2作品合わせて大丈夫かなぁ、と思いましたが、ちゃんとクロスしながら、重厚なドラマに仕上がってました。
舞台は中部地方の山間部の限界集落と、そこにつながる田園地帯の小さな町。
つなげるのはY字路の道。
そこで起きた少女失踪事件をきっかけに、心にかげりを抱き続ける人々。
死んでいい人なんていない。
でも……。
誰かが犯人として死んでくれれば、と思ったけれど、決して心に区切りは付けられない。
誰も救われないまま、苦しい人生を生き続けなければならないのか?
限界集落は、座して死を待つだけなのか?
養蜂を通して、なんとか集落を盛り立てたい――出る杭は打たれるだけ。
利権が絡むと、手の平を返したような村八分、挙げ句の執拗な嫌がらせ。
田舎=楽園に移住したいという、浮ついた夢を打ち砕くような現実が突きつけられる。
誰も救われないまま、滅んでいくのを待つだけなんて……。
居づらい故郷を離れ、ひとり東京で暮らす紡と、彼女を追いかけて来た幼馴染の広呂。
二人の未来だけが、ささやかな希望。
『友罪 - 一応、邦画劇場』よりは、まだ救いがあるかな?
五郎役の柄本明さんが、凄まじかった。人間の業の深さを思い知らされた。
豪士役の綾野剛さんが、凄まじかった。心の闇が深すぎて、哀しかった。
善次郎役の佐藤浩市さんが、凄まじかった。もう、痛々しすぎて、観ているだけで心がズタズタにされた。
紡役の杉咲花さんが、凄まじかった。感情の揺らぎが、表情やしぐさ、セリフの発し方から、心にしみてくる。
この映画で、杉咲さんを好きになりました。これが収穫かな?