一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

お父さんのバックドロップ

私的評価★★★★★★★★★☆

お父さんのバックドロップ
お父さんのバックドロップ [DVD]

 (2004日本)

 弱小団体“新世界プロレス”の大黒柱、下田牛之助(宇梶剛士さん)が息子の一雄(神木隆之介さん)をつれて、おんぼろアパート“幸荘”に帰ってきました。妻・早苗(奥貫薫さん)を亡くし、父・松之助(南方英二さん)と親子3代で一緒に暮らすためです。同じアパートには牛之助の幼なじみの金本英恵(南果歩さん)が息子の哲夫(田中優貴さん)と一緒に住んでおり、牛之助は、仲間のレスラーを引き連れて英恵の営む焼肉屋で引っ越し祝いをしました。プロレスが嫌いな一雄は、同級生になった哲夫と意気投合し、父親の職業をクラスの子どもたちに明かさないで欲しいと“男の約束”を交わします。一方、牛之助は団体マネージャーの菅原(生瀬勝久さん)に、興行を盛り上げるためのヒーローとして、ヒール(悪役)への転向を勧められ、断り続けていましたが、苦しい台所事情で仲間がクビを切られそうになったことをキッカケに、ヒールへの一時的な転向を決意しました。そして、プロレス嫌いの息子の信頼を取り戻したい一心で、熊殺しの異名を持つ空手チャンピオン、ロベルト・カーマン(エヴェルトン・テイシェイラさん)に無謀な挑戦状を叩きつけた牛之助、戦いのゴングは鳴らされたのです。果たして牛之助は、一雄の信頼を取り戻せるのでしょうか?


 プロレスを題材にした人情喜劇の王道的な作品です。ストーリーはバリバリに先が読めます。読めるだけに、クサイ話になりがちなところですが、そんなエピソードの砲列をこれでもかこれでもか、と真正面から突きつけられると、快感すら覚えます。その快感を支えているのが、キャストの演技のすばらしさと、監督がディテールにこだわった演出の妙でしょう。監督もコメンタリーで「分かっていても見てしまうのが真のエンターテインメント」みたいなことを言ってらっしゃったので、その辺は計算づくだったと思われます。

 南方英二さんは、かなりリアルなジジイと孫の関係を見せてくれました。南果歩さんの吹っ切れた演技も素敵でした。宇梶さんは、まぁ愚直なところが役どころにはまっているからいいか。神木くんは、計算できてるところがそろそろハナにつきそうなところまで来ている(かつての安達祐実さんみたいな感じかな?)という気がしますが、声変わりするまで(もう12歳だからそろそろだよな)は今の路線でいいかな?

 子ども同士の友情を物語るエピソードをさりげなく挿入し、その亀裂と落とし前をつけるまでをキチンと描いている点、イイですね。団体の経営方針を巡ってことごとく対立する菅原と牛之助との友情も、かなり熱いモノが感じられます(決戦のリングにあがるまでの控え室〜通路をふたりで歩くまでのシーンは、グッときました)。

 cobaさんのBGMもかなりマッチしています。子どもたちの遊びのシーンでのさりげない軽さも心地よかったし、ここというところでは的確に盛り上げてくれました。

 脚本自体もかなりイイんだと思います。ビデオを上書きされて消されたことが分かるシーンで見られるように、過不足なく繰り出されるセリフの構成には、心地よいキレが感じられます。

 基本的に男はハマる映画ではないでしょうかね。とにかくテンポよい展開といとおしさを覚える登場人物たち、そしてストレートな話に、思い切り笑って、しまいには泣かされているという、大阪人情喜劇です。最後にはクビになったレスラーも帰ってきて、一緒に祝勝会で盛り上がってたり、ハッピーエンドでいいですよ。

●監督:李闘士男 ●原作:中島らも(小説「お父さんのバックドロップ」)