一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

私立探偵 濱マイク 1 緒方明監督「31→1の寓話」

私的評価★★★★★★★☆☆☆

私立探偵 濱マイク 1 緒方明監督「31→1の寓話」 [DVD]

 (2002日本)

 横浜黄金町の映画館「日劇」のペントハウスに住居兼事務所をかまえる濱マイク永瀬正敏さん)がTVドラマになって帰ってきました。といっても3年も前ですが…^^;) DVDはTVで放映しなかった部分も含む完全版だそーです。そのせいかどうか、小ネタがいっぱいです。毎回入れ替わりで当代の人気映像作家がメガホンを取るという趣向のため、どの作品もけっこう雰囲気が異なります。今回の緒方明監督は、まったく知りませんでした。


 飼っていた金魚の金ちゃんが死んで埋葬場所として「土」のある場所を探し歩くうち、マイクはビルの狭間で古い死体を見つけます。その後、マイクの元に“僕を探してください。狭山悟”という内容の手紙が届きました。期限は5日後の31日まで。現金50万円が同封され、お金は使ってください、と。手紙の住所を訪ねていくと、そこは市営住宅団地で、市から立ち退きを命じられて居座り続ける主婦たちが結束して自給自足の生活を続けており、その旗振り役が主婦たちのひとり・さつき(菅野美穂さん)の夫・狭山悟だったのです。狭山は「みんなを幸せにする」と言って、ふらっと出て行ったままでした。一方、マイクの見つけた死体は、日本特殊銀行(すごいネーミングだな)の屋上から飛び降りた所沢という行員で、彼はリストラ寸前に西暦2000年問題対策に追いやられた3人の行員のうちのひとりで、狭山もその中のひとりだったことが判明します。


 1999年12月31日から2000年1月1日になるとき、コンピューターが誤作動して、たとえば旅客機が墜落するとかいったような、あたかも未曾有の大惨事が引き起こされるかのごとく学者やマスコミが煽り立てて、結局特段変わったことは起きなかったという出来事を題材に、いわゆるコンピューター西暦2000年問題に携わった3人の男のその後を描いた事件です。

 1999年から3年経ったドラマの中でも、マイクのお友だち関係が集まった焼肉屋で「そういえば水買った。でも、なんで?」という感覚であったように、「非常食を調達した」とか「ラジオと懐中電灯を確保した」とかいう記憶があっても、なんでそんなことをしなければならなかったか、思い出せない人が多いと思います。実際、必要なかったのですから。いや、ま、実際は、水なんかはしばらく消費し続けたことでしょうけど、停電下とか異常事態の中での消費でなかったから、覚えていないと思うんですよ。ところが、コンピューターのソフトの書き換え作業なんかに従事したことのある人たちには、正直しんどかったツラい日々を思い出す出来事なんですよね。実際、ボクも当時そういう職場に勤務してたので、少しばかりプログラムの修正なんかをやった記憶があります。

「何かしたから、何も起きなかったのか? 何もしなくても、何も起きなかったのか?」狭山が、仮住まいの壁に書いた言葉です。2000年になる瞬間、世界的な大惨事を引き起こしてしまうという強迫観念に囚われた所沢は、飛び降り自殺をしました。心を病んだ小金井は入院中。西暦2000年問題に翻弄された男たちのその後です。

 狭山が仮住まいで何をしていたかは、ネタバレになるので言及しませんが、事件の解決方法は、いかにもマイクらしい爽快感があります。

 エッチな小ネタが多いんですけど、それぞれに徹底していて、おもしろいですよ。ふふふんと笑えます。迷い牛は、ちょっと意味不明でした。最初に見たときは、次の事件の伏線なのか?とまで思ったのですが、まったく関係ありませんでした。

 マイクを取り巻く人間関係が、映画とかなり変わっています。妹(中島美嘉さん)の雰囲気が、映画とまったく変わっているのは、これはこれでなかなかリアルかも…。探偵事務所のバイト・みるく(市川美和子さん)、劇場もぎりの比留間ひる(井川遙さん)、マイクの幼馴染みで自動車修理工場の丈治(村上淳さん)、少年鑑別所時代のダチで古着屋の忠志(松岡俊介さん)、コーヒーマツモトのサヨコママ(松田美由紀さん)や仕事をサボってサヨコの店に入り浸るコンビニ店長・誠(阿部サダヲさん)、パチンコ景品交換所で情報屋をしているサキ(当時は永瀬さんの妻だった小泉今日子さん)などのレギュラー陣は、どこかしら和み系の雰囲気を醸しています。ドラマの回が進むにつれて、それぞれに心の傷を負っていることが分かっては来るのですが、それにしても、映画に比べると、かなりほんわかしています。テレビ向けの雰囲気作りかもしれません。

 銀行員所沢・小金井・狭山は東京近辺の地名のようですが、狭山悟は佐山サトルですか? 初代タイガーマスクです。古着屋の忠志がマスクマン・マニアという設定になっているのに通じている気がします。

●監督:緒方明 ●原作:林海象