一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

MASK DE 41

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

MASK DE 41 マスク・ド・フォーワン [田口トモロヲ/松尾スズキ/筒井真理子] [レンタル落ち]

 (2004日本)

 倉持忠男(田口トモロヲさん)41歳。会社では万年平社員、不況続きで仲間が次々と希望退職してゆく中、リストラの影に怯え続けています。そして連れ子同士の再婚を果たしていた家庭は崩壊寸前、妻(筒井真理子さん)は長女(伊藤歩さん)と長女の頼りないカレシのことで始終いがみ合い、次女(蒼井優さん)は密かに中学を卒業したらこんな家庭を抜け、実の父の力を借りてダンス留学をしようと企んでいました。職場にも家庭にも居場所の見つからない倉持の唯一の楽しみは、プロレス。学生プロレス時代は、マスク・ド・小鉄の名でリングにあがるも、彼の負け犬人生を象徴するかのごとき400戦400敗を記録、それでもプロレスだけを心の支えにして、養育費を払っている前妻との息子・光雄(黒田勇樹さん)と月1回プロレスの興行を見に行くこと、そしてプロレスファンの集まるバーでプロレス談義に花を咲かせることだけを楽しみにしていました。そんな倉持の前に、学生時代にタッグを組んでいた蝦脇(松尾スズキさん)が現れ、女子アマレスラーの人気者・浜田京子を軸にプロレスの新団体を旗揚げする、と言ってきたのです。蝦脇は、旗揚げ公演のメインで浜田と対戦を組ませたい人気レスラーのギャラが工面できず、ひたすらあらゆる手段で相手を挑発してその気にさせる姑息な手を打っていましたが、作戦はことごとく空振りに終わっていました。そして、職場で閑職に追いやられた倉持は、家族に内緒で仕事をやめ、退職金をつぎ込んで、蝦脇と一緒にプロレス団体の旗揚げを決心します。ところが…。


 全編に流れる哀愁感たっぷりのラテンのリズムがメキシコの雰囲気を漂わせ、なんだか妙に切ない気分にさせながら、主人公にとってもひどい仕打ちを次々と仕掛け、笑わせたいんだか泣かせたいんだか、まぁ、とにかくいろいろと心騒がされる展開なんですが…。

 焦点はどこに当たってるんでしょうか? 家族の再生? 父権の回復? 負け犬人生への決別? 微妙によく分からないんだがねぇ…。プロレス団体を興すことにトチ狂ってしまった夫に、父に、どうやって心を開き心を寄せていこうという気になったんでしょうか? 冷静に考えたら、崩壊寸前の家庭で父親が暴走してしまっては、求心力を得ることなどありえないと思うんですが…。

 実は、ただ単にプロレスファンのための映画なんではないか、そんな気もします。プロレス・シーン自体も別段すごいこともなく、ただひたすら田口さんがやられ続けるシーンが続き、あとは田口さんがひとりで汗を振り飛ばしながら闘っているアップが連続する、試合がどうなっているのか全く分からない展開には、プロレスの試合そのものは、もしかしてどうでもいいんかなぁ、なんて思ってしまいました。だって、プロレス団体立ち上げのストーリーより、バーで集う面々のプロレス談義に花咲かせている部分の方が、熱く感じられるんですもん。1984年6月14日の蔵前での暴動なんて、コア過ぎて何のことだかさっぱり分かりませんから(ネットで適当に調べてください。ハルク・ホーガンアントニオ猪木の試合がきっかけみたいです)。

 松尾スズキさんを始め、小日向文世さん、ラーメンズ片桐仁さんら、脇がいい味出してます。しかし、松尾さんの蝦脇、困るよなぁ、こんなヤツ仲間にいたら。でも、高校の同級生くらいに範囲広げたら、ひとりくらいこんなヤツいるような気がするよなぁ。ホント、どうしてくれよう、どうしてやっても一文の得にもならん、おまえと付き合っとったら貧乏神にとり憑かれるわい、て感じ。あ、高校の同級生にひとりって、もしかして、オレのことかい?

 非難囂囂、投げ込まれた食いカスや飲みかけのコークの紙パックに塗れたリングの上で、何言ってるのか聞き取れないほどひどい興奮状態で喚き散らし、リングに上がった妻に渾身のラリアットをかまされる、そこで夫婦愛を再び燃え上がらせる火花が散ったとでも言うのでしょうか? ラストはキッチンで平和な家族の食卓を匂わせるような画。ぬるいけど、ま、いいか。ハードな負け犬人生だけは、変わってないような気もするんですが…。

 も一度確認しておきますが、きっとプロレス映画じゃないですよ。プロレスファンの映画ですよ。期待したら外しますよ。でも、田口さんは本気で13kgも増量して筋肉を鍛え、FMWハヤブサさんと吹き替えなしのガチンコ(?)の試合シーンを撮影したそうです。田口さんはプロレスファンでも何でもないそうなので、レイジング・ブルのデ・ニーロさんみたいなプロの役者魂を感じさせるエピソードですね。でも、プロレス映画じゃない。

●監督:村本天志