一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

犬神家の一族

私的評価★★★★★★★★☆☆

犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD]

 (1976日本)

 本作は、角川映画の記念すべき第一弾として、市川崑監督が手がけた横溝正史さんの作品です。石坂浩二さんの金田一耕助は、原作で定型化している金田一のイメージである、蓬髪をかきむしってフケを散らす姿と、興奮すると飛び出す吃音癖、そしてねずみ色のおかま帽に着物(袴)姿という出で立ちで、一番原作に忠実な金田一の登場という印象でした。


 長野県那須市の大富豪・犬神佐兵衛(三國連太郎さん)が残した遺言状には、彼が生前財を成すきっかけを与えてくれた大恩人の孫・珠世(島田陽子さん)と、彼の3人の孫たち、助清(あおい輝彦さん・二役)・助武(地井武男さん)・助智(川口恒さん)のいずれかが結婚することを前提として、すべて珠世に相続させると書いてあった。戦争で行方の知れぬ5番目の遺産相続候補者・青沼静馬(あおい輝彦さん・二役)の影が、那須の湖畔に跋扈する中、佐兵衛翁の莫大な遺産を巡って、珠世を自分のものにせんとする3人の孫たちが次々と猟奇的な連続殺人の餌食となり、事件の謎を、金田一耕助が解き明かす、というもの。


 本作に限らず、横溝作品は、何度も繰り返し映像化されています。最近はテレビの2時間枠のサスペンスものが各局で製作されているので、テレビで見る機会が多いとは思いますが…。しかし、それらの中で、繰り返し観賞に堪えられる作品が、どれほどあるでしょうか? テレビドラマの場合、どうしても視聴率稼ぎのため、その場限りの話題をさらって消費しきろうとする作品になってしまっている、そんな気がしてなりません。特に、金田一耕助を誰が演じるかが見せるためのキーワードになってしまっていて、ドラマの方は二の次みたいな印象を拭えないのです(個人的に、稲垣くんの金田一はいただけません)。

 ミステリーは、ネタがばれたあと、どうしても次に見ようという気が起こりにくいものです。ところが、市川崑監督が手がけた本シリーズ5作は、ドラマとしてのできが非常にすばらしく、何度でも繰り返し見てしまいたくなるという、優れたエンターテインメント作品に仕上がっていると思うのです---巨匠に対して僭越な意見ではありますが…^^;)。

 緩急明暗を巧みに織り込みながら、人間ドラマとミステリーのぞくぞくするような戦慄を画面から引き出す演出、なにげに見始めたとしても、すぐさま映画に没頭させられてしまいます。吸引力絶大です。

 そして大野雄二さんの音楽。今でもテーマ曲の切ない調べが聞こえてくると、金田一耕助の世界にすぐさま引き込まれてしまう、そんな感覚が、体に刷り込まれてしまっています。

 また豪華すぎる出演者の方々の演技もとてもすばらしい。特に、出演者たちの微妙な表情の変化がいいと思います。猟奇殺人を扱いながら、加藤武さんの警察署長や、三木のり平さんの宿屋の主人など、微妙に雰囲気を緩めて和ませる演出も心地よいですね。

 ま、大袈裟ですが、「日本映画のスタンダード作品」としてぜひ後世に残したい、そんな気がします---まるで宣伝担当の営業マンみたいな感じで恐縮ですが…^^;)。

●監督:市川崑 ●原作:横溝正史(小説「犬神家の一族」)