一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

13階段

私的評価★★★★★★★★★☆

13階段 [DVD]

 (2003日本)

殺されてもいい人なんて、いないよ…

 クラブで絡んできた男を誤って殺してしまい、過失致死で服役していた三上純一反町隆史さん)が、仮釈放で実家に戻っていました。ある日、服役中に三上を指導していた刑務官・南郷正二(山崎努さん)が現れ、10年前に起きた殺人事件で死刑判決を受けた樹原(宮藤官九郎さん)の冤罪調査に加わるよう、三上を誘います。樹原は仮出所中に保護司の宇津木夫妻を殺害した容疑で服役していますが、その死刑執行が3ヵ月後に迫っているのでした。樹原は宇津木夫妻の殺人事件の直後、バイクで事故を起こしており、記憶を失っていたのですが、唯一「階段を昇った」という記憶だけが、冤罪を晴らすための手がかりなのです。ふたりは事件の起きた千葉の町へ調査にでかけ、真相にたどり着きますが…。


 満場一致で第47回江戸川乱歩賞を受賞した、高野和明さん原作の同名小説の映画化です。

 ストーリーが実に面白い。10年前の樹原の事件を追ううちに、三上の事件が微妙にクロスオーバーして見え隠れする、そして天涯孤独な樹原のために3000万円の報酬を支払ってまで、冤罪を晴らそうとする謎の依頼人の正体、ミステリーとしても上々の出来です。

 ミステリーはネタが分かると面白さが失われて、2度見る楽しみが薄らぐものですが、本作はドラマとしての出来がすこぶるいいと思うのです。死刑という重いテーマを真正面から捉え、死刑執行のディテールを忠実に再現し、被害者と加害者、死刑囚と死刑執行人、そして関係する家族や友人など、それぞれの心の揺らぎや痛みを丁寧に描いた重厚なドラマなのです。リアルに再現された死刑執行のシーケンスでは、死刑囚(宮迫博之さん)、刑務官(寺島進さん)らの演技がとても痛々しく、死刑という合法的な殺人の、永遠に裁かれない罪を背負うことのやりきれない重さに、どうしようもなく胸を締めつけられます。

 音楽がとってもうまくドラマを盛り上げているんですよね。イギリス人のニック・ウッドという人が担当しているんですが、実によく作品のテーマや精神性を理解して、すばらしく場面場面にマッチした音楽を紡ぎ出しているんですよ。特に、南郷と三上というふたりの屈折した主人公が、樹原の事件を解決に導く過程で救われ、生まれ変わるように希望を見出すエンディングの微妙な心情を、実にうまく盛り立てて見せてくれています。

 出演されている俳優さんたちの演技もすばらしいです。現場がいかに充実していたかを思わず想像させるほど、みなさんキリキリと研ぎ澄まされたような緊迫感に満ちた演技を見せてくれます。特に、反町隆史さんの抑えた演技には驚かされました。山崎努さんとのやりとり、お互いの複雑な心情が、微妙な表情の変化で画面に映し出されるところは、非常に満足度が高いです。ふたりの主人公のドラマも、けっこう深く切なく描かれていて、見応えがあります。

 シナリオもいいんでしょうね。「死刑は殺しではない」「仕事だ。だから、一生裁かれない罪だよ」「人の命をなんだと思っている」「殺してやりたいと思う瞬間は誰でもある」「殺されていい人なんて、いないよ」…心に切り込んでくるような切実なセリフが、ビシビシと飛び交い、知らず知らずのうちに涙があふれるような感動があります。

 とにかく、見れば見るほど味わい深いです。邦画のスタンダードとして、後世に残したい作品のひとつではないかと思います。

●監督:長澤雅彦 ●原作:高野和明(小説「13階段」)