一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

簪(かんざし)

私的評価★★★★★★★★★☆

あの頃映画 簪(かんざし) [DVD]

 (1941日本)

 「按摩と女」のDVD見たさに、ついついBOXセット「清水宏監督作品 第一集 〜山あいの風景〜」を買ってしまいました。本作はその中の収録作のひとつです。

 今から67年前の映画です。音飛びやトラッキングの狂い、コマ落ちではないかと思われるような箇所もありますが、「按摩と女」同様、ステキな作品でした。

 物語は、「按摩と女」と同様に、主役の恵美(田中絹代さん)たち一行数十名の団体が、山あいの温泉宿に向けて、歩いて夏の山道を旅するところから始まります。彼女たちの泊まった宿では、何かと口やかましげに理屈っぽく語る片田江先生を始め、納村(笠智衆さん)、広安夫妻、老人とその孫の太郎と次郎という小学生たちが、長期滞在していました。恵美たち一行が旅立ったあと、露天風呂に入っていた納村が、足の裏に簪(かんざし)を刺して怪我を負う事件が起こります。宿の主人の調べで、簪は恵美が失くしたものと分かり、連絡を取ると、納村の元に、東京から恵美が謝罪に訪れました。

 温泉場は、子どもにとってはあまり面白い場所ではなく、すぐに飽きてしまうような場所でしょう。太郎と次郎は夏休みを利用して、老人の湯治につきあうことにしたのでしょうが、毎日退屈をしていたのだと思います。納村がリハビリのために歩く練習を始めると、太郎と次郎は「おじさんガンバレ!おじさんガンバレ!」と声援を送りながら納村を励まします。しかし、納村が恵美と親しげに話し始めると、すぐにつまらなそうに離れていって拗ねて見せます。そんな子どもたちの素直さが、木漏れ日の揺れる夏の木立の風景と相まって、とても爽やかな印象を与えてくれます。

 湯治場に滞在する人々の様子を描いた物語は、抒情的というよりも叙景的であるかもしれません。その分、恵美や納村の内面については、見ている者が推察しなければならないでしょうが、その辺りの「押し付けがましくない」演出が、とても新鮮に映ります。近い将来を予感させる終わり方も、なんとも言えぬ余韻があって、好もしかったです。

※購入したのは、こちらの商品

清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~ [DVD]

清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~ [DVD]

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2008/04/25
  • メディア: DVD

●監督:清水宏 ●原作:井伏鱒二(小説「四つの湯槽」)