按摩と女
私的評価★★★★★★★★★☆
(1938日本)
週末のスマ・ステーションを見ていて、草彅剛さん主演で「山のあなた〜徳市の恋〜」としてリメイクされた映画の元の作品がDVD化されていることを知り、AMAZONで速攻注文してしまいました。
70年前の映画ですよ。さすがに音がパチパチいってる箇所もあるし、微妙にトラッキングがずれる箇所もあるし、フィルムの古さは感じましたが、作品自体の古さをさほど感じなかったのは驚きでした。いや、むしろ、登場人物の感情描写にとても抑えが効いていて、説明臭さがないあたりに新鮮さを覚えました。自分、「あぁ、そうか。徳市(徳大寺伸さん)は東京から来たお客さん(高峰三枝子さん)に恋しているのか」と、気づくの遅すぎでした。押し付けがましくない、微妙な人間の感情の機微を感じ取れるように、修行して出直さないとイケないですね。そう思うと、ホントにしみじみと味わい深い作品だと思えてきました。
物語は、目の不自由な按摩の徳さんと福さんが、山あいの温泉宿に向けて歩いて旅するシーンで始まります。ふたりは目明きの旅行者を何人追い抜くか、というのを楽しみに歩いている元気者で、宿に着くまでの間に交わすふたりの会話はブラックなユーモアを含んでいて、いきなりぐいっと引き込まれます。
温泉街に着くと、目の不自由な按摩仲間が5人集まり、徒党を組んで杖を振り振り街道を闊歩していくシーンが何度も出てきます。按摩という職業は、こうした温泉街にしっかり根付いた文化の一端だったのでしょう。そういえば、ボクが子どものころには、目の不自由な按摩さんが、フツーに近所に出没していました。もしかすると、この時代の方が、障がいを持つ人たちが元気に外に出て行っていたのではないか、そんな気がします。
徳さんの立ち居振る舞いを見ていると、目が不自由なことが決して生きるうえで致命的なハンディとなっていないことを感じます。確かに感が鈍ると、いろいろとぶつかったり不自由なこともありますが、見えなくても健脚自慢で闊歩し、時には子どもと川で泳ぎ、何より人の気持ちを敏感に感じ取れる、そんな生き方ができるのだということを感じます。そして、そういう生き方を受け入れる当時の社会の懐の深さも、同時に感じました。
面白かったので、リメイクも楽しみですね。
※購入したのは、こちらの商品
●監督:清水宏