一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~

私的評価★★★★★★★★☆☆

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映画『種まく旅人~華蓮のかがやき~』公式サイトより引用

 (2021日本)

「レンコンの穴は、先が見えるから縁起がいい・・・」

 大学卒業後、大阪・堺市で銀行マンとして働く山田良一(平岡祐太さん)にある日、故郷の金沢でれんこん農家を営む母(𠮷野由志子さん)から「父親(竹市)が脳梗塞で倒れた」と電話が入る。父、竹市(綿引勝彦さん)が倒れたことにより、畑を引き継ぐか売却か二択を迫られる良一。結婚を考えている恋人、凜(大久保麻梨子さん)のこともあり、なかなか決断できない。戸惑いながらも父に代わって畑へと向かう良一の姿に、不安と苛立ちを募らせる凜。一方、農林水産省かられんこん農家の視察として神野恵子(栗山千明さん)が金沢へとやって来るのだった。

(映画『種まく旅人~華蓮のかがやき~』公式サイト「STORY」より引用)
tanemaku-tabibito.jp


 石川県金沢市の地域おこし的映画。

 加賀レンコンが取り持つご縁に導かれ……実に潔く、清々しい、爽やかな映画。

 農水省の官僚が〝農業女子〟なんて浮かれたフレーズ使って嬉しそうに広告代理店に踊らされるようなスカスカの映画かと思ったら、レンコン農家の跡取りを嫌って金沢を飛び出し、大阪の信金に勤めている青年の顧客の中小企業の経営者が、信金から運転資金の停止と借金の弁済を迫られた挙句、首をつって亡くなるという衝撃的な展開で始まり、収入構造にリスクの多い農家をめぐる経済問題やら、切実な後継者問題やら、ブラックな農家の嫁の実態やら、農業支援の給付金を当て込んで貰えるモン貰ったらさっさと離農する気マンマンの田舎移住希望の若者カップルやら、企業化して働き方改革に着手する農業経営やら、けっこうテンコ盛りにエピソードいっぱい盛り込んだ、意外と中身の濃いお話でしたね。

 その中で、大阪の信金勤めの良一とレンコン農家の両親、良一の恋人・凛との人間関係の描き方は、なかなか考えさせられるモノでした。
 自分の周りにも、結婚を機に安定した収入が保証される市役所職員の身分を捨てる女性は少なからずいましたし、中には本気で農業に取り組みたいから農業大学校に進むために退職したという、それなりの年配の女性職員もいてました。
 話は逸れるかもしれませんが、サラリーマンを辞める、あるいはサラリーマンを辞めて就農する、という決断をする場合、意識の上だけの問題なのかもしれませんが、また言い方も乱暴かも知れませんが、男性より女性の方が身軽にポジションを変えられるような気がしていました。少なくとも、不器用なボクには、サラリーマンを辞めて、自力で稼ぐだけの決断をおいそれとできる自信もなければ、万が一失敗した場合に自分だけの生活ならどうにでもなるかも知れませんが、そうでなかった場合を考えると…やはり簡単に決めることなんてできないと思ってましたね。『男性は家計の収入を支えなければならない』、そういう考えに縛られている世代だからなんでしょうかねぇ。

 戻します。
 栗山千明さん演じる農水省の職員は、女性が〝職業の選択肢の一つ〟として〝農業〟を意識してもらえるように、就農環境を整える必要があると訴えます。
 一つの実践例として、企業経営型の農業というアプローチでレンコン畑を職場にする女性たちが登場します。
 サラリーマン同様、定時で仕事を始めて定時に仕事を終える──仕事終わりには、繁華街でスイーツを食べて話に花を咲かせることもあります。
 農業はキツクてしんどくて臭い──奇しくも良一が、泥まみれの父の作業着を手に取って「臭っ!」と叫んだように、マイナスイメージもつきまとっているけれど、良一の母は、「上等なレンコンが掘れたら、見せびらかしたくなるくらい誇らしい気持ちになって、それがイチバンの遣り甲斐だ」と、収穫時の歓びが格別であることを息子に語って聞かせます。
 仕事をシェアしながら労苦もシェアして働く。労苦をいとわず一途に打ち込んで収穫の歓びに遣り甲斐を見出す。
 いずれも真理だと思います。
 良一の母は、「レンコン畑で作業するのに衣装なんか関係ない」と見えを切ったものの、使い勝手のいい小ジャレたユニフォームは、満更でもなく、ご機嫌に見えました。
 こうしたアプローチは、女性のみならず男性にとっても働く環境が良くなることだと思います。
 農業の未来、ほんの少し垣間見えた気がしました。

●監督:井上昌典 ●脚本:森脇京子 ●撮影監督:阪本善尚