一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

ゴジラvsデストロイア

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

ゴジラVSデストロイア 東宝DVD名作セレクション

 (1995日本)

 ゴジラ死す。」


 VSシリーズのレビューって書いてなかったのか。


 ゴジラシリーズ第22作で、ついにゴジラが死ぬ?
 平成VSシリーズの完結編として、ゴジラの死を描く本作、あんまり劇場に足を運ばない自分が、当時ついついキャッチコピーに惹かれて、劇場まで見に行ってしまった映画です。
 冒頭、香港の空港から飛び立つ旅客機のコクピットから見える、ゴジラの登場シーンが衝撃的でした。胸が真っ赤に燃え盛り、明らかに代謝異常を来たしていると思われるゴジラ
 最後にメルトダウンして、本当にゴジラは死んでしまうのか?


 うん、20世紀のゴジラ、良くも悪くも。
 たぶん、もうVSシリーズみたいな雰囲気の映画は、誰も撮らないんだろうな。
 案外、ボクは好きなんだけど、今じゃシン・ゴジラみたいにフルCGで作れちゃうからなぁ。
 ノスタルジーに浸るしかないのは、ちょっと寂しい限りです。
●監督:大河原孝夫 ●脚本:大森一樹 ●特技:川北紘一

We Are X

私的評価★★★★★★★★★☆

WE ARE X Blu-ray スタンダード・エディション

 (2016イギリス)

 日本のみならず世界で活躍を続けるロックバンド、X JAPAN。その激動の歴史と、世界を熱狂させる彼らの魅力の神髄に迫る音楽ドキュメンタリー。バンドの解散とメンバーの死という最悪の状態から、再結成、そして2014年10月11日のマディソン・スクエア・ガーデンのステージに立ち、再び輝きを放つまでのリアル・ストーリー。


 あまりふつうの人生ではお目にかかれないほどの、悲劇の連続。

 ひ弱な少年時代に経験した父の自殺。バンド結成。世界への挑戦と失敗。メンバーTAIJIさんの脱退。Toshiさんの洗脳と脱退を機に決断したバンドの解散。追い討ちをかけるように起こった元メンバーHIDEさんの死。脱退したTAIJIさんも、久々に演奏を共にした数ヵ月後に亡くなってしまう。そしてYOSHIKIさん自身も、音楽生命の危機に瀕するような傷を負っていた。

 日本の報道映像をふんだんに活用し、当時の日本に巻き起こったX JAPANを取り巻く社会現象ともいえる出来事の数々、特にToshiさんの洗脳からHIDEさんの死までの出来事が、YOSHIKIさんが封印していた心の生傷を開く。YOSHIKIさんは、改めて過去の出来事を見つめ直し、それらを事実と受け止め、そして乗り越え、前へと進む決意をするのだった。

 WOWOWで深夜に何気なくこの作品を見始めたんですが、見進めるにつれて、次第に体が震えてくるのを禁じえませんでした。
 X JAPANは、ある意味、信仰の対象。
 YOSHIKIさんも、亡くなったHIDEさんも、アイコンなのでしょう。
 目の前から居なくなってしまうと、埋め難いほどの大きな喪失感に苛まれるほどに、のめり込み、心を奪われてしまっている人たちが、少なからずいる。
 ボクには、そこまでのめり込む対象を持ち合わせていませんが、間違いなく、世界中の多くのX JAPANのマニアたちが、バンドを心のよりどころにしていることが見てとれました。

 93分と尺は短いですが、スタイリッシュで美しい映像と音楽、そして生々しくも濃密なバンドの運命が胸を打つ、至高の音楽ドキュメンタリー映画です。

●監督:スティーブン・キジャック ●音楽:X JAPAN

ラプラスの魔女

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

ラプラスの魔女 DVD 通常版

 (2018日本)
 
 別々の場所で連続不審死が起こった。2件とも雪の温泉場の野外で、死因は硫化水素中毒。事件の検証のため現場を訪れていた地球化学の研究者である青江教授(櫻井翔さん)は、同じような自然環境下で、起こりえない筈の中毒死が発生したことに適切な答えを導けず、行き詰っていた。2つの不審死が、殺人である可能性を追及する中岡刑事(玉木宏さん)や、不審死の現場を訪れて来た謎の女性・羽原円華(広瀬すずさん)らと関わるうちに、青江はすっかり大学の仕事が手につかなくなり、事件の真相解明に全力を傾けるが・・・


 GW明けの月曜日の11時30分の回、ガラガラ・・・10人少々かな?
 ミステリーは好きですが、寡読にして東野圭吾さんの作品は、たぶん一作も読んでないんですね。
 では、映像作品はどうかと思って検索してみたんですが・・・
 そもそも福山雅治さんの『ガリレオ』シリーズを見ていないw
 阿部宏さんの『新参者(加賀恭一郎)』シリーズは、まぁ見ている。
 多部未華子さんの『浪花少年探偵団』も見ている。
 でも、あとはテレビは記憶にない。映画は・・・あぁ、ことごとく話題作を見ていないですね。
 でも、たぶん、原作者が嫌いなわけじゃないと思います。
 主演の方が、好みかどうかくらいの判断で。


 じゃあ、なんで今回『ラプラスの魔女』を見ようと思ったのかと言うと、単に先月行った神戸市の科学館にポスターが掲示してあったから、に過ぎません。きっかけは大したことないものです。


 以下、感想です。


 正直言って、「金返せ!」とまで言わなくても、「期待はずれ」でした。
 ミステリーって言っていいのか、SFにも足を踏み入れてるのか、よく分かりませんが、純粋に本格ミステリーと思ったら、ちょっとずるいな、と感じました。たぶん、もっと本格モノを期待していたのかと、自己分析します。
 物語としては、少し中盤が薄いような印象も。ただし、終盤から怒涛のクライマックスまで、特に鬼気迫るセリフの畳み掛けは、凄まじかったです。
 ところで、主役は、誰なんでしょうね?
 櫻井さんですか? なら半端です。印象が薄い。というか、アイドルなのに、節制してないのかと思うほど、顔のたるみが気になったのですが(苦)。
 いや、広瀬さんが主役でしょ? う〜ん、それも。彼女の演じる羽原円華の役どころが、イマイチ魅力に欠けてるような気がしたんですよねぇ。キャラが立ち切ってないような。
 いっそ、甘粕才生の豊川悦司さんにしますかw 登場場面は全部と言っていいくらい、ド迫力感じましたよ。さすがです。


 あと、気になったのが、3点ほど。
 高嶋政伸さんの最後の登場シーンで、「公安はオレが引き止めてやる」とか言ったあとのシーンがバッサリ切れてたの、演出の都合上ですかね? そのあとどうなるのか、ものすごく気になりました。
 次は、クライマックスのCGシーン。なぜ、そんな? 一瞬、上映事故かと思ったよw 自分の仕事にも映画の上映が関係あるので、本気で心配しましたw
 最後に、青江教授、なんで無事だったんですかw


 ネタバレ書きたくないので、これ以上は内容書けないんですが、初見は、ややがっかりでした。繰り返し見直すと、印象は変わるかもしれませんが、今回の収穫は、「豊悦はすごかった」ってところでしょうか。あと、科学館で広報する意味もない気がします。科学知識に対する誤解を流布しかねないとまで言ったら、言い過ぎかもしれませんが、せいぜい「科学に対する興味を持つきっかけくらいになれば」と思っていただいて、鑑賞してほしいと感じました。


●監督:三池崇史 ●原作:東野圭吾(小説「ラプラスの魔女」/角川文庫)
《原作です》

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ゼロの焦点

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

ゼロの焦点(特典DVD付2枚組)<Blu-ray>

 (2009日本)

 禎子(広末涼子さん)は、夫の鵜原憲一(西島秀俊さん)と見合い結婚して7日目。結婚を機に憲一が、東洋第一広告金沢出張所主任の身分から東京本社に栄転することになり、事務引継ぎのため後任の本多(野間口徹さん)とともに金沢へと最後の出張に出かけた。東京駅で憲一を見送った禎子は、よもやそれが夫との最後の別れになるとは努々思ってもみなかった。数日のうちに帰京するはずの憲一が、行方不明になってしまったのだ。憲一の行方を突き止めるため、禎子は金沢に向かうが、金沢の憲一の住まいを会社の誰も知らないことが分かり、ついに警察に届けることになる。禎子は、金沢で憲一が家族ぐるみで昵懇にしてもらっていたという室田耐火煉瓦株式会社の社長・室田儀作(鹿賀丈史さん)と後妻の佐知子(中谷美紀さん)を訪ねるが、応対に出た受付の女性社員・田沼久子(木村多江さん)が使うスラングまじりの実地の英語が気になる一方で、憲一の行方の手がかりは一向につかめないままだった。たった7日間しか夫との付き合いがない禎子は、憲一の過去を調べることにする。その矢先、京都への出張の便に金沢へ立ち寄った憲一の兄の宗太郎(杉本哲太さん)が、温泉旅館で毒殺されるという事件が発生した。宗太郎の葬儀のため一旦帰京することにした禎子は、旅館から消えた派手なコートの女性が気になり、本多に田沼久子のことを調べるよう依頼する。田沼久子は宗太郎の死のあと出社しておらず、久子の居宅を訪ねた本多まで刺殺されてしまった。憲一の失踪と宗太郎・本多の死、そして田沼久子の失踪には、どんな関係があるのか? やがて、禎子の知らなかった憲一の過去から、意外な事実が次々と明らかになって…。


 原作者の松本清張さんの生誕百周年を記念して、電通さんが仕掛けた1961年版『ゼロの焦点』のリメイク。実は、劇場公開当時に、珍しく見に行ってるんです。

 平成も20年も経ってから、昭和30年代を再現するのは大変でしょうね。VFXは一部使われていますが、韓国でロケが行われたそうです。屋内のセットでの撮影は、けっこう昭和感出てますが、全体を通してみると、どこかしら平成の舞台の上で、作り物のエセ昭和が浮いてしまってる、そんな印象は拭えません。
 どうでもよい脱線話ですが、リメイク版でも、蒸気機関車日本海を臨むルートを走るシーンが出てきます。金沢駅でアップになった路線の表示を見ると『信越線』を経由するルートのようで、それなら日本海側を走っても不思議ではないのでしょう。昭和32〜33年ごろの設定で、原作とほぼ同時代のようですが、1961年版の方が、少し時代が前の設定なのでしょうか?

 犬童監督らしく、登場人物の描写、3人の女優さんのキャラの描き分けはけっこう深くてイイと思います。特に中谷美紀さんの演技が怖いほどキテました。ある意味、ホラーじみてますw なぜか幸薄い役の多い木村多江さんのはまり具合も、安心の配役。広末涼子さんは、がんばっていたとは思うんだけど、ちょっと1961年版久我美子さんに比べて、主役感が薄い取り扱われ方だったかな? モノローグがやたら多いんだけど、か細く甲高い感じの声質が、個人的にあんまり好きじゃないんですよねぇ。それに、モノローグの多さが説明的過ぎて、ストーリーの緊迫感を殺いでいる感じがして、この辺の脚本・演出はあまり良くなかったかな、と感じます。とかく、平成の今は、テレビドラマも説明が多すぎて、見る者に一通りの解釈しか許さず、ほとんど考えさせる余地がない気がしますよね。雁字搦めの法律の条文みたいで、味気ない感じです。

 鹿賀丈史さん室田儀作のキャラが1961年版加藤嘉さんとすっかり変わっていて、驚きました。力づくで事業を推し進めるような傲岸不遜なタイプのキャラですから、妻への愛は、素直に表現されません。それゆえか、クライマックスでは悲惨な結末を迎えるのですが、もうこのへんの件、脚本がかなり雑な気がしました。

 室田佐知子の弟・鳴海享(崎本大海さん)は、何なんでしょう? 原作には登場するんですかね? この方の役どころも、なんか説明するためだけに配された感じで、よく分からなかったです。最後には、彼が描いた佐知子の肖像画が映し出されたりして。なんか、ね。

 クライマックスで、禎子が「あなたは私の夢を奪った」というセリフ。微妙に共感しづらいんですよねぇ。相手のことをよく知らないまま見合い結婚して1週間しか一緒に過ごしていない夫に対して、プラターズの『オンリー・ユー』に乗せて熱く涙を流すほど思い入れがあるのかなぁ、と。そんなの、逆に何も知らないまま突然失ったから、一時的に気持ちが高ぶって持っていかれてるだけなんじゃないかなぁ、と。

 クレジット・ロール中の中島みゆきさんの歌も、唐突感たっぷりで、邪魔臭いです。こういう意味不明なタイアップ、大嫌いなんですよね。歌詞なしのBGMでクレジット流して欲しかったな、と。

 冒頭は、戦時下の学徒出陣の実写映像で始まり、戦場で戦死した兵士の亡骸などが映し出されます。タイトルバックでは、戦後のさまざまな新聞記事や動画など、時代を映し出すトピックスが次々と表示されます。本編は昭和30年代初め。最後のエンド・クレジットでは新幹線が登場し、手をつないだり腕を組んだりしながら街を歩くカップルたちなどの映像が流れ、現代まで時間が進んで終わります。言いたいことは、分かるような気もしますが、平成の今、リメイクするにあたり、あまりにも時代背景が違いすぎるための、説明的な映像の付け足しのような気がして、なんだか説教臭い印象を持ちました。しれっと昭和で終わってくれて良かったんだけどな。

 と、まぁ。登場人物の熱演が素晴らしいのに、なぜか、いや、それゆえか、たらたらとダメ出ししてしまいましたが、ドラマとしては、見応えあると思います。ただ、比較してしまうと、1961年版の方が、シンプルで好きかな?


●監督:犬童一心 ●脚本:犬童一心、中園健司 ●原作:松本清張(小説「ゼロの焦点」/光文社ほか)

ゼロの焦点

私的評価★★★★★★★★☆☆

『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション ゼロの焦点』 [Blu-ray]

 (1961日本)

 禎子(久我美子さん)は、夫の鵜原憲一(南原宏治さん)と見合い結婚して7日目。結婚を機に憲一が、博報広告社金沢出張所長の身分から東京本社に栄転することになり、事務引継ぎのため後任の本多(穂積隆信さん)とともに金沢へと最後の出張に出かけた。東京駅で憲一を見送った禎子は、よもやそれが夫との最後の別れになるとは努々思ってもみなかった。数日のうちに帰京するはずの憲一が、行方不明になってしまったのだ。憲一の行方を突き止めるため、禎子は金沢に向かうが、金沢の憲一の住まいを会社の誰も知らないことが分かり、ついに警察に届けることになる。禎子は、金沢で憲一が家族ぐるみで昵懇にしてもらっていたという丸越工業株式会社の社長・室田儀作(加藤嘉さん)と後妻の佐知子(高千穂ひづるさん)を訪ねるが、応対に出た受付の女性社員・田沼久子(有馬稲子さん)が使うスラングまじりの実地の英語が気になる一方で、憲一の行方の手がかりは一向につかめないままだった。たった7日間しか夫との付き合いがない禎子は、憲一の過去を調べることにする。その矢先、京都への出張の便に金沢へ立ち寄った憲一の兄の宗太郎(西村晃さん)が、温泉旅館で毒殺されるという事件が発生し、時を同じくして田沼久子が失踪した。憲一の失踪と宗太郎の死、そして田沼久子の失踪には、何か関連があるのか? やがて、禎子の知らなかった憲一の過去から、意外な事実が次々と明らかになって…。


 昭和36年のモノクロ映画です。
 『張込み』と同じく、ボクも生まれる前の時代ですが、基本的には知識として時代背景を把握しているので、特に見ていて困ることはありませんでした。しかし、やはり、いろいろとその時代の風俗習慣を知らないと、ピンと来ないことも多々ありそうです。
 禎子の回想の中で、新婚旅行中に憲一が北陸について語るシーンがあります。
 「あそこにあるのは、ただ薄暗い灰色の曇り空。一日中晴れ上がった日が、一年のうちに何日あるだろう。その灰色の空から、陰鬱な冬になると雪。そして荒れた海。」
 当時は、日本海側の地域のことを『裏日本』と言っていました。まさに、『裏=陰鬱で薄暗い』イメージで北陸を語っていますね。実際は、夏は相当暑く晴れ渡る日が続くように思うのですが、脚本家のイメージが、当時の世間一般のイメージで凝り固まっているかのような印象です。で、実際の舞台は12月の金沢と能登。それはそれは相当な積雪でしょうし、能登などはボクも冬に一度訪れましたが、暗い空から雪が横殴りの強風にあおられるように吹き付け、黒く沈んだ日本海の荒波は岸壁に強く打ち付けて波の花を散らす、と。確かによそ者にとっては不便で暗いイメージでしょうねぇ。でも、冬限定のイメージだと思うんですけど。
 話は逸れますが、脚本家のイメージといえば、蒸気機関車日本海を臨むルートを走り、禎子が列車内から能登半島を眺めるというシーンが出てきます。ところが、当時の東京〜金沢の路線で日本海沿岸を走るルートは無かったのだそうです。脚本家のイメージが、現実をはみ出してしまったようで、この作品以降、脚本家の橋本さんは、必ず現場を踏んでからシナリオを書くよう心がけたのだそうです。鉄道路線の話で脱線してしましました^^;
 『パンパン』という、現代では聴きなれない言葉も出てきます。終戦後、駐留していた米兵等を相手に売春行為をしていた女性を指す言葉です。『星の流れに』(作詞:清水みのるさん、作曲:利根一郎さん)という歌があって、戦後から2年後の1947年(昭和22年)10月に発売され、菊池章子さんという方が歌ってらっしゃいました。映画の後半で、この歌を口ずさむシーンが出てきますが、『♪こーんなー、女にー、だぁーれが、したー』という歌詞が、当時の私娼たちの身の上に重なって、じわじわと流行っていったのだそうです。


 時代だなぁ、と思ったことをひとつ。
 西村晃さんが、膝に子ども抱えてタバコを喫うシーンがあります。南原宏治さんも、列車内の久我美子さんのすぐ隣の席でタバコを喫います。とにかく、ふつうに喫煙シーンが多々登場します。現代は、お国によっては、もはや喫煙シーンを上映できないということもあるようですので、これだけ大胆な喫煙シーンが出てくるのは、ちょっと衝撃的です。
 それから、放送の冒頭に「この作品には、放送上不適切と思われるセリフがいくつかありますが、作者の意図を尊重して、そのまま放送いたします。ご了承ください。」と出るんですが、それでも2箇所くらいセリフが飛ばされている気がしました。WOWOWがテレシネ用に入手した原版の時点でカットされていたのでしょうか? Blu-ray版を視聴する機会があれば、確認してみたいと思います。

 クライマックスで、能登金剛の『ヤセの断崖』という断崖絶壁の上で主人公と犯人が対峙するシーンが登場します。原作には無いアレンジだそうで、現在の2時間サスペンス・ドラマの奔り、と言われているそうです。


●監督:野村芳太郎 ●脚本:橋本忍山田洋次 ●原作:松本清張(小説「ゼロの焦点」/光文社ほか)

張込み

私的評価★★★★★★★★★☆

『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]

 (1958日本)

 警視庁の柚木刑事(大木実さん)は、下岡刑事(宮口精二さん)とともに、東京・深川の質屋で発生した強盗殺人事件の容疑者・石井(田村高広さん)を追って、石井の昔の恋人・横川さだ子(高峰秀子さん)の嫁いだ佐賀市に向かう。柚木たちは、横川家の向かいの旅館で張り込みを開始したが、二十歳も歳の離れた銀行員の後妻に納まったさだ子は、毎日夫が出かけたあとに行う2時間の掃除と、子どもたち(3人の継子たち)が帰ってくるまでの洗濯とミシンがけ、夫が毎朝渡す「今日の分」百円の家計費で夕方買い物に出かけるだけの、ただただ単調な日常生活を繰り返すのみであった。柚木は、平凡で何の取り柄もない女にしか映らないさだ子を見続けるうち、石井がわざわざ訪ねてくるほどの魅力を持ち合わせているとは思えなくなっていた。本当に石井がは現れるのか? じりじりと照り付ける真夏の張込みの最中、次第に柚木たちの焦りが募ってゆく。


 小学校高学年になって、推理小説を読むようになって、図書室の怪人二十面相・少年探偵団シリーズや、野村胡堂さん、柴田錬三郎さんらのジュブナイルを読みあさった挙句、初めて書店で手にした新潮文庫のオトナ向けの本が、この作品をタイトルにした松本清張さんの短編集でした。小学生には読むのが難しく、少し読んでは放置を繰り返し、何年かかけて読破しましたが、本作の原作と『投影』という作品がお気に入りでした。


 昭和33年のモノクロ映画です。
 冒頭、横浜駅から23時6分に発車した急行『さつま』に飛び乗る2人の刑事たち。とにかく、この車中の描写が長いのですが、当時は車内に2泊して東京から32時間かけて鹿児島に到着していた列車なのだそうです。しかも、途中で電車から蒸気機関車に牽引車が切り替わっています。電化もまだまだの時代なのでしょう。当時の庶民の2泊の列車旅は、過酷です。現在もある背面垂直の座席しかないのに満席で、狭い通路にしゃがみながら、うつらうつらと居眠りの旅。さらに真夏なので、窓を開放して天井の扇風機が回っていても、乗客はみな汗みどろなのです。とても疲れたことでしょうねぇ。
 そして、久留米で乗り換え、佐賀に着いて県警本部に挨拶をしたあと、さだ子の家の向かいの宿の2階に陣取って、柚木が「さぁ、張込みだ」と独白したところで、やっとタイトルバックがガーンと流れ始めるのですが、ここまで実に12分もかかっています。長いですなぁ^^;

 『十年一日の如し』の単調なさだ子の生活を監視する“張込み”は、同じく単調で退屈な仕事でした。刑事が犯人を追うサスペンスではありますが、実は、ふたりの女性との縁談を前に結婚に迷う柚木が、さだ子という女を通して、女性の気持ちを探っていく物語のような気がします。そういう捉え方だと、ヒューマン・ドラマでしょうね。

 そして、とにかく、全編、暑い。モノクロの画面に映り込む黒々と濃い影とカンカン照りの日差しのコントラスト。登場人物たちの肌を流れ落ちる玉のような、あせ、アセ、汗。暑さの表現を際立たせるため、曇って陽が翳ったら撮影を中断したというエピソードがあるくらい、野村芳太郎監督のこだわりがあったようです。まぁ、見事に暑い。


 舞台は昭和30年代前半の地方都市です。
 さすがに私自身も生まれる前なので、知らない、あるいは実体験のない、当時の人々の営みが出てきます。
 たとえば、夕方さだ子が買い物をするのは、大通りに立ち並ぶ露店がメインです。ボンネットバスも登場します。バスには車掌がまだ乗務しています。刑事が丸っこいフォルムのタクシーを、土煙を上げながら走らせます。いずれも道は、土むき出しの未舗装路で、いったいどこの未開の国なのかと思うような風景です。
 サーカスが来たり、夏祭りがあったり、当時の庶民の娯楽が次々と映し出されます。夕ご飯のあと、宿では民放のラジオ放送をみんなで楽しみますが、女中は「ハイハイのラジオ」と言っています。たぶん“HiFiのラジオ”のことでしょうね? 音質がクリアになったのでしょう。銀行員のさだ子の夫でさえ、テレビは置いてないようです。東京タワーが出来たのがこの昭和33年ですから、地方のテレビ放送がどれほど普及していたかと想像すれば、まだまだラジオで十分足りた時代なのでしょうね。
 ちなみに昭和33年の物価

  • 大卒初任給----約1万3,500円
  • かけそば1杯-----------25円
  • 牛乳180cc------------14円
  • 生ビール1杯-----------80円
  • 食パン1斤-------------30円
  • たばこ1箱-------------40円
  • 映画1本-------------150円
  • はがき1枚--------------5円
  • テレビ14インチ--------7万円
  • 電気洗濯機-----------3万円
  • 電気冷蔵庫----------10万円

 大卒初任給から換算すると、テレビは現代で100万円以上の価値がありそうです。


●監督:野村芳太郎 ●脚本:橋本忍 ●原作:松本清張(小説「張込み」/新潮社文庫ほか)

二十一の指紋

私的評価★★★★★★★★★☆

多羅尾伴内二十一の指紋 FYK-174-ON [DVD]

 (1948日本)

 片眼の運転手に扮した多羅尾伴内片岡千恵蔵さん)が、波止場で泣く女・里見珠江(喜多川千鶴さん)を拾って、とある屋敷に送り届けた。彼女が屋敷に入った直後、女の悲鳴が聞こえたため、多羅尾が邸内に入ると、暗がりの中、男の死体が床に伏しているのを発見した。女の姿がないことを確認した多羅尾は、匿名で警察に殺人事件を通報する。現場では二十一もの怪しい指紋が検出され、その中には、かつて紳士怪盗と呼ばれた藤村大造のものが含まれていることが判明し、世間が色めき立つ。一方、捜査を担当する笠原警部(大友柳太郎さん)の元へ、弁護士の皆川英夫(齋藤達雄さん)が訪れた。皆川は、現場から消えた女の身元について尋ね、さらに凶器に使われた短剣を確かめると、「タキン・ミヤの短剣…!」と呟き、顔色を変え、うろたえる。そこへ現れた風采の上がらない私立探偵の多羅尾伴内は、笠原に自分の正体をこっそりと明かす。その後、皆川の家を訪ねた多良尾は、皆川から里見珠江とその母の行方を捜すよう依頼を受けた。


 多羅尾伴内シリーズの第三作。
 本作も、スリル満点で、たいへん面白かったです。
 今回も多羅尾探偵が、得意の変装を駆使して活躍します。変装では、何度かしくじって、潜入に失敗し、次の変装、次の相手、と目先を変えて捜査を展開します。こういったところを見ても、このシリーズ、尺は短いですが、シナリオはちゃんとしてますね。そして、今回の変装は、腹話術師の“一樂亭ピカ一”と、とぼけた表情の人形が大活躍です。
 喜多川千鶴さんが、今回もヒロインで出演なさっていますが、今回は二役を演じておられます。ずいぶん雰囲気の違う二役を、見事に演じ分けていらっしゃっいました。
 前々作『七つの顔』、前作『十三の眼』、では、あまり戦後間もない焼け跡などが映し出されなかったのですが、本作は生々しく破壊された焼け跡に立つバラックや、戦災孤児などが登場します。ようやく同時代を描いた作品になったかな、という印象です。戦災孤児たちの活躍は、少年探偵団を思い出させてくれて、ワクワクしました。
 しかし、多良尾の捜査の中で、けっこう無茶苦茶なことをするところがありますね。行き倒れる老人に扮して、注射を打ってもらうのは、内容を考えると、かなりヤバいですよ。


●監督:松田定次 ●脚本:比佐芳武