一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

二十一の指紋

私的評価★★★★★★★★★☆

多羅尾伴内二十一の指紋 FYK-174-ON [DVD]

 (1948日本)

 片眼の運転手に扮した多羅尾伴内片岡千恵蔵さん)が、波止場で泣く女・里見珠江(喜多川千鶴さん)を拾って、とある屋敷に送り届けた。彼女が屋敷に入った直後、女の悲鳴が聞こえたため、多羅尾が邸内に入ると、暗がりの中、男の死体が床に伏しているのを発見した。女の姿がないことを確認した多羅尾は、匿名で警察に殺人事件を通報する。現場では二十一もの怪しい指紋が検出され、その中には、かつて紳士怪盗と呼ばれた藤村大造のものが含まれていることが判明し、世間が色めき立つ。一方、捜査を担当する笠原警部(大友柳太郎さん)の元へ、弁護士の皆川英夫(齋藤達雄さん)が訪れた。皆川は、現場から消えた女の身元について尋ね、さらに凶器に使われた短剣を確かめると、「タキン・ミヤの短剣…!」と呟き、顔色を変え、うろたえる。そこへ現れた風采の上がらない私立探偵の多羅尾伴内は、笠原に自分の正体をこっそりと明かす。その後、皆川の家を訪ねた多良尾は、皆川から里見珠江とその母の行方を捜すよう依頼を受けた。


 多羅尾伴内シリーズの第三作。
 本作も、スリル満点で、たいへん面白かったです。
 今回も多羅尾探偵が、得意の変装を駆使して活躍します。変装では、何度かしくじって、潜入に失敗し、次の変装、次の相手、と目先を変えて捜査を展開します。こういったところを見ても、このシリーズ、尺は短いですが、シナリオはちゃんとしてますね。そして、今回の変装は、腹話術師の“一樂亭ピカ一”と、とぼけた表情の人形が大活躍です。
 喜多川千鶴さんが、今回もヒロインで出演なさっていますが、今回は二役を演じておられます。ずいぶん雰囲気の違う二役を、見事に演じ分けていらっしゃっいました。
 前々作『七つの顔』、前作『十三の眼』、では、あまり戦後間もない焼け跡などが映し出されなかったのですが、本作は生々しく破壊された焼け跡に立つバラックや、戦災孤児などが登場します。ようやく同時代を描いた作品になったかな、という印象です。戦災孤児たちの活躍は、少年探偵団を思い出させてくれて、ワクワクしました。
 しかし、多良尾の捜査の中で、けっこう無茶苦茶なことをするところがありますね。行き倒れる老人に扮して、注射を打ってもらうのは、内容を考えると、かなりヤバいですよ。


●監督:松田定次 ●脚本:比佐芳武