一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

Love Letter

私的評価★★★★★★★★★☆

Love Letter [DVD]

 (1995日本)

 雪の降り積もった神戸。渡辺博子(中山美穂さん・二役)は、雪山で亡くなった恋人の藤井樹の3回忌の帰り、樹の母の安代(加賀まりこさん)の招きに応じて、彼の住んでいた部屋を訪れます。そこで彼が3年の冬まで通っていた小樽の中学の卒業アルバムを見た博子は、巻末の住所録から樹の小樽の住所を見つけ、今は国道となったその住所の藤井樹宛に手紙を送ることを思いつきました。ところが、決して届かないことを知った上で、天国の彼に宛てて送ったつもりだった手紙に、返事が返ってきたのです。樹の登山仲間で、ガラス工房に勤める秋葉茂(豊川悦司さん)は、樹の3回忌のあと、博子が少し嬉しそうな表情で工房を訪れたことに気づき、「何かいいことがあったのかい」と尋ねました。博子は天国に宛てた手紙に返事が返ってきた驚きを、秋葉に告げました。博子に恋心を抱いていた秋葉は、博子が樹のことを未だに引きずっていることに胸を痛め、正直に気持ちを打ち明けました。しかし、博子は謎の藤井樹との文通を続けます。


 手紙の藤井樹は、実は彼の同姓同名のクラスメイトで、女性の藤井樹(中山美穂さん・二役)でした。覚えのない博子からの手紙に戸惑いながらも、好奇心で返事を書いていた樹(女)でしたが、事情が分かると、博子から促されるままに、中学時代の彼の思い出を手紙にしたためるようになりました。それは、同姓同名ゆえに受けたクラスメイトからの冷やかしなど、彼女にとっては決して楽しい思い出ではありませんでした。しかし、手紙の中で思い出を綴るうちに、封印されていた中学時代の淡い片恋が浮かび上がって…。

 初めて見たとき、まったくストーリーが理解できませんでした。中山美穂さんが二役をやっている上、小樽も神戸も雪景色で、藤井樹(女)と渡辺博子の区別がつかず、さらに、同姓同名の藤井樹が男と女で登場するとあっては、ぼんやり見ていたら、完全に置いてかれた感じになったワケなのです。改めて見直すと、よく分かりました。冒頭の中学時代のアルバムを見つけ、最初の手紙を送るシーンをぼんやりと見逃したら、ストーリー分からなくなるみたいです。初見のときは、「なんで送った手紙、自分で受け取って首かしげてんだ?」だったのです。二役と気づかずに…^o^)ゝ

 で、このストーリーはさらに、渡辺博子にウエイトを置いて感情移入すると、消化不良を起こしそうになります。実は、博子と樹(女)の間で主に語られているのは、中学時代の少年・樹(柏原崇さん)と少女・樹(酒井美紀さん)の思い出なのです。そこから浮かび上がってくるのは、少年・樹の少女・樹に対する不器用な片思い。博子は自分が樹(女)に似ていることを知って、彼の恋に気づき、そのことを樹(女)に手紙で告げますが、樹(女)の方は「そんなことありえない」とまったく意に介さないのです。しかし、最後の最後に…とってもイイお話なので、ネタバレ禁止としときます。

 死んだ樹(男)をいつまでもグズグズと引きずってしまう渡辺博子の言動には、男のボク的には、かなりうんざりしてしまいます。「もう、ええ加減にしよーで!」て、机バンバン叩きたくなります。根気よく博子を諌め、勇気づけ、気持ちを吹っ切らせようと頑張る秋葉は、ほんとにイイひとだなぁ、と、感心させられます。まぁ、樹(女)の方が、ずっと好感持てるけど、こちらは逆に男を寄せ付けないんですよねぇ。ま、言い寄ってくるのはちょっとキモい、郵便屋だけですが…。

 やっぱりね、この映画は少年・樹と少女・樹の思い出が、かなりグッときますよね。図書委員選出の件とか、答案用紙の受け取りまちがいの件とか、ことごとく、「あぁ、分かる分かる。こんなことやってまうよなぁ」と、共感しまくりです。特に、少年・樹の心の揺れと、表に出る態度のヒネくれ具合が、もう、胸キュン(そりゃ、女の子が使う感情表現だわいねw)ものです。それに、少女・樹は意識してなかったけど、実は少年・樹にシンパシーを感じていたんではないか、そう思わせるシーンもあり、ますます胸がキュンとなります。

 オープニングに流れるテーマ曲のメロディが、すでに切ない気分を引き出して画面に引き込んでくれるんですが、決して切なさだけで押し通さず、ところどころに自然と頬の筋肉を緩ませるような微笑ましい小ネタを仕込みながら、前向きで明るく振舞う秋葉と樹(女)のキャラに救われて、暗く落ち込むような雰囲気にはなりません。その分、涙腺ゆるゆるのボクですが、この映画でどぅわぁ〜っと泣くようなこともなっかたです(松田聖子青い珊瑚礁を秋葉が口ずさむ理由を知ったとき、少しじわっときましたが…)。でも、見終わったあと、すぅーっと、胸のつかえが下りるような、爽やかな気分になれます。名作です。

●監督・脚本:岩井俊二