一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

銀河鉄道の夜

私的評価★★★★★★★☆☆☆

銀河鉄道の夜 [DVD]

 (1985日本)

 ジョバンニ少年は、病気の母と2人暮らし。昼は学校、放課後は活版所で活字拾いのバイトをしています。彼の父は、北の海へ漁に出かけたまま、音信普通。口の悪いクラスメイトのザネリは、「ジョバンニのお父さんは、北の海でラッコを密猟して、監獄に入れられているから帰ってこれないんだ」と噂していました。ジョバンニにとって、そんな口さがない噂に加わらない、カムパネルラだけが親友でした。星祭り(ケンタウル祭)の夜、子どもたちは川にカラスウリを流しに行きますが、ジョバンニは母の食事の牛乳を受け取りに、ひとり町外れの牛乳屋に出かけます。途中、町の中心にある十字広場で、祭りの輪ができていました。ぼんやりその輪を眺めていたジョバンニに、ザネリがまた冷やかしの言葉を投げかけ、いたたまれない気持ちになったジョバンニは、黙って駆け出します。町を見下ろす丘の上でぼんやり夜空を眺めていると、空から突然、蒸気機関車が降りてきました。ジョバンニが中に乗り込むと、カムパネルラが乗っていました。2人はそのまま、幻想的な銀河鉄道の旅に出かけます。夢のような銀河鉄道の旅の中で、ジョバンニはしきりとカムパネルラとの永遠の友情を確かめようとしますが、なぜかカムパネルラは少し寂しそうにうなずくばかり。やがて汽車が南十字星を抜け、石炭袋に近づくと、カムパネルラはジョバンニを残して、汽車を降りてしまうのです。それは2人の永遠の別れを意味していました。


 宮沢賢治さんの童話が好きで、小学生のころ、学校の図書室の全集を読み漁っていました。しかし、小学生には難解な作品もままあり、“銀河鉄道の夜”もそんな作品のひとつでした。小学生のころは、内容がうまく消化できませんでした。鉄道の旅の最中に出会う“鳥を捕る人”が、荷物の袋から取り出したサギがお菓子になっていた、というエピソードと、銀河鉄道の旅が終わったあとの、衝撃的な結末だけが心に残っています。夢の中のできごととしか思えないような銀河鉄道の旅は、いったい何を意味していたんだろう、という感じでした。本作は、脚本の別役実さんが、そのへんを大胆に解釈し、一定の意味付けをして見せてくれていると思います。ある意味、分かりやすいストーリーになっているのではないかと。

 それにしても、切ないお話です。ジョバンニの「ボク、もう少しあの人と話をしておけば良かった」というセリフがあります。童話と世間一般では括っていますが、こんなにも生を意識させられる童話って…と、複雑な気持ちになります。子どものころ、夜空の星を眺めながら、自分の命の儚さと、このホシが滅亡したあとも続くであろう宇宙のことを想像して、どうしようもない深い悲しみに包まれ、涙したことが何度もあります。感受性がまだ豊かだったころのお話です。今は…まぁ、それなりに。

 ネコをキャラクターにしたのは、ますむらひろしさんの漫画作品の“銀河鉄道の夜”からでしょうね。ますむらさんは、山形県米沢市界隈の景色や暮らしなどからインスパイアされて描いた“アタゴオル物語”などの作品で、知られています。人間とネコが同じ種族であるかのように暮らしている設定の作品の数々は、ボクも大好きで、コミックの単行本をいろいろ買い集めました。本作も、ジョバンニの住む町の家並や、郊外の野原、森、そして銀河鉄道から見えるさまざまな景色などに、ますむらさんらしい、美しくノスタルジーを感じさせる暖かい絵柄がふんだんに見られ、画面を見ているだけでも癒される感じがします。

 細野晴臣さんの不思議な感じの音楽も、映画の雰囲気にとてもマッチしていて、イイんですよね。

●監督:杉井ギサブロー ●原作:宮沢賢治(小説「銀河鉄道の夜」) ●原案:ますむらひろし ●脚本:別役実 ●音楽:細野晴臣 ●アニメーション制作:グループ・タック