一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

グエムル-漢江の怪物-

私的評価★★★★★★★★★☆

グエムル-漢江の怪物-(スマイルBEST) [DVD]

 (2006韓国)

 まぁ、いつか見ようと思ってたんだけど、何気にスカパーのザッピングをしてたら、ムービープラスでオープニングタイトルが出終わった直後だったので、ついついなんとなぁ〜く見てしまいました。

 とにかく、いったんストーリーが動き始めたら、ほとんど有無を言わせぬ勢いでぐいぐいと映画の中に引き込んでしまうような、そんな力に満ちた作品でした。


 何気なぁ〜い日常の漢江(ハンガン)の河川敷、レジャースポット『ヨイド』で売店を営むパク・ヒボン(ピョン・ヒボンさん)とその長男カンドゥ(ソン・ガンホさん)。カンドゥの娘ヒョンソ(コ・アソンさん)が学校から戻ってくると、カンドゥは娘とともに、妹ナムジュ(ペ・ドゥナさん)のアーチェリーの試合をテレビ中継で見始めました。そこへ河川敷の客への配達が入り、カンドゥがビールを持って河川敷に向かうと、大勢の行楽客が、橋の下を指差しながら集まっていました。カンドゥが彼らの視線を追いかけると、そこには巨大な怪物が尻尾を巻きつけるようにして、ぶらさっがっており…やがて漢江に飛び込んだ怪物が、ヨイドの行楽客を恐怖のどん底に叩き込むパニックが巻き起こり、ヒョンソが怪物に連れ去られてしまうという悲劇が…。


 文字にすると冗長ですが、ここまでの展開が、日常の行楽地で本当に起こったかのように、何の予兆も、一切の説明もなく、突然始まると一気に流れていってしまい、そこからはあれよあれよという間に、いろんな出来事が無駄なく、無理なく詰め込まれてクライマックスまで運ばれてしまうのです。凄い!と思いました。

 頭文字[イニシャル]D THE MOVIEを見たときにも思いましたが、日本では、たぶん、こういうテイストの映画は撮れないでしょう。なんて言うのか、民族性とか国民性とかの違いが大きいんでしょうねぇ。

 うまく説明できませんが、例えば、『家族愛』。日本人は、こういったパニック映画でさえ、大事な誰かを失う映画って、嫌いなんじゃないでしょうか、たぶん。見るのも、撮るのも。「死んだと思った人が無事だった。あぁ良かったね。めでたしめでたし」ってハナシが、ほとんどって気がしませんか? いや、別にそれがイケナイというのとは違うんですが、大事な人の死を描くのが下手なのか、その辺は分かりませんが、死に対する感じ方・捉え方が、日本人はちょっと麻痺しているような気もします。リアリティないというのか。う〜む、やはりうまく説明できませんでした。

 それから。もしも、本当に怪物が現れたら…という設定で、社会がどんな混乱を来たし、国家がどんな手を打ってどんなことが起こっていくかといったストーリー展開にも、妙に説得力を感じるところがあるんですよね。まぁ、市街地や空港で銃を抱えた軍人を普通に目にするような国ですから、国家や軍隊が動き出すという描写にはリアリティを感じます。こういった社会的な背景や、生活環境の違いも、死に対する感じ方・捉え方の違いに影響しているんでしょう、たぶん。


 ま、そんなお国柄による違いは差し引いても。演出は非常にスタイリッシュでカッコいいと思いました。特に最後の怪物との戦闘のシーケンス。ハリウッド映画みたいな「止めを刺したと思ったのに、まだ生きてたのかよぉ!」的なくどさを排除し、なおかつ一人の無駄もなく戦いに関わった人間すべてが有意味に動いた末に怪物が退治されていくシーケンスが、ストレスなくスッキリと描かれていて、大いにカタルシスを感じることができました。ペ・ドゥナさんの洋弓のシーンでは、思わず「おぉっ!そう来たか!!」と口走っていました。美しい!

 最後に、BGMの使い方。ときおり混じるシャンソンっぽい、ちょっとコミカルでちょっとせつなげなメロディの曲が、とてもステキな印象を与えてくれました。

●監督:ポン・ジュノ