一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

丹下左膳 百万両の壺

私的評価★★★★★★★★★☆

丹下左膳 百万両の壺 特別版 (初回限定生産2枚組) [DVD]

 (2004日本)

 笑った、泣いた、胸が高鳴った、そして、シビレた…。


 主君の裏切りで右目と右腕を失った丹下左膳豊川悦司さん)は、侍の身を捨て、死の淵から救い出してくれた矢場の女将お藤(和久井映見さん)の元に転がり込み、用心棒をしながら暮らしていました。そのころ、ケチで知られる柳生藩主対馬守は、お上から日光東照宮の改装を全面的に任され、財政難に窮していました。ある日対馬守は、柳生家の家宝“こけ猿の壷”に百万両の隠し金の在り処が塗り込まれていることを知らされ、一気に財政難を脱することができると喜びます。ところが、壷は江戸の道場に婿養子に入った弟・源三郎(野村宏伸さん)への祝儀として譲り渡した後だったのでした。そんな事情を知る由もない源三郎の妻・萩乃(麻生久美子さん)は、その古びた小汚い壷を廃品回収屋に売ってしまいます。巡り巡って、壷は長屋に暮らすちょび安(武井証くん)の金魚鉢に収まりました。ひょんなことから、孤児になってしまったちょび安を、お藤にキツく戒められながらも、左膳は引き取ることにします。かくして百万両の壷を巡り、様々な回収作戦が始まり…。


 山中貞雄監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壷』の完全リメイクなんだそうです。寡聞にして山中監督のことは知りませんが、特典ディスクに収録されている作品比較で、本作と山中オリジナルの名シーンの映像が楽しめます。

 正直言って、トヨエツ初の時代劇と聞いて、期待半分、不安半分でした。役作りに苦労して、失敗するのでは、という不安でした。しかし、期待以上にハマッてました、トヨエツ丹下左膳。めっちゃ味わい深かったです。和久井映見さんとの夫婦漫才ぶりが、最高に引き込まれました。クールでニヒルな中にもコミカルで人情にもろい男を、とてもいい感じに演じきってました。静も動も、とことん見せます。表情、台詞回し、どこをとっても完璧です。トヨエツ、惚れてしまいました。

 相手の和久井映見さんがまた良かった。意欲的にチャキチャキの江戸っ子女将を演じていましたが、きっと本人とは対極的なキャラだったのではないかと思うと、頭下がりました。さすが女優さんです。

 ちょび安役の武井証くんは、“いま、会いにゆきます”の息子・佑司役を演じていましたが、まだ6歳だったんですね。いや、凄いですよ。本作もいたいけで、かわいかったです。

 もしかすると殺陣は期待したほど時間を割いてないかもしれませんが、その殺陣が実はカッコよかったんです。口に鞘をくわえて左手で抜刀し振り下ろす、その丹下左膳独特の一連の動きが、186センチの長身のため、すごくカッコよく決まってました。大柄な人が時代劇やるの、いいですね。

 メイキングを見て感心したこと…(1)CG使ってません。孟宗竹を断ち切るシーンも昔ながらの仕掛けを施して、光学撮影のみで見せるこだわり。(2)スタッフ全員が演じるリハ。スタッフ全員が脚本を理解し、映像を作り上げる糧にする。(3)マイナス気温の京都のロケ。白い息が出ないように役者は氷を口に含んで本番に臨み、スタッフはカメラを持って凍りつきそうな池に入り、6歳の証くんは、あまりの寒さに泣き出してしまうけど、カメラの前ではちゃんと演技していた!(4)撮影期間わずか25日! 濃密な現場だったんでしょうねぇ。

 ラストシーンは、アレっ?と思いましたが、まぁ、冷静に考えればさほど問題ではないのです。声はすれども…ってね。

 これは人情喜劇です。“痛快娯楽時代劇”という表現もいいかもしれないですね。

●監督:津田豊滋 ●原作:林不忘(小説「丹下左膳 こけ猿の巻」)