一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

茶の味

私的評価★★★★★★★★☆☆

茶の味 グッドテイスト・エディション [DVD]

 (2003日本)

 春野家の人々の緩やかな日常を描いたホームドラマ(?) 高校1年生の長男・春野ハジメ佐藤貴広さん)は片思いを告げられぬまま、好きな子が転校してしまったことを後悔していました。小学1年生の長女・幸子(坂野真弥さん)は、ときどき巨大な自分の幻影が見えてしまうことに戸惑っていました。元アニメーターの母・美子(手塚理美さん)、催眠療法士の父・ノブオ(三浦友和さん)、ノブオの父で元アニメーターの祖父・轟木アキラ(我修院達也さん)、それに叔父さんの春野アヤノ(浅野忠信さん)が帰省していて、6人6様のドラマが…。


 なんか…むちゃくちゃ「緩い」映画です。ダラダラと長いし…。タイトルどおり、「茶の味」が分かるには、何度も飲んでみないと分からないかもしれません。緑に囲まれたロケ地・栃木県茂木町の緩やかな景色をふんだんに織り込みながら、BGMなし&オフマイク気味のグダグダな会話シーン(かなりアドリブもあるみたいです)を延々挟み込み、自然のまんまの鳥の声やら虫の鳴き声やらがBGM代わりにずーっと流れていて、なんか、映画そのものがメイキング映像のような、自主制作映画のような、独特の雰囲気です。緩すぎて、特別な感動はないんだけれど、しかし、見終わったあと、じわじわと沁み込んでくる感じがあるかも…。

 ストーリーもよく分かんないんですよね。登場する人のいろんなエピソードが細切れにつながれるんだけど、割とハッキリしてるのは、ハジメと転校生・鈴石アオイ(土屋アンナさん)の淡い恋と、幸子が自分の幻影を断ち切るために逆上がりを密かに練習していくお話の顛末ですかね。あ、特別な感動がないって書いたけど、最後に幸子が逆上がりできたシーンは、思わず「あっ!!」て声に出しちゃいました。実際メイキング見てみると、坂野真弥ちゃんが本当によく頑張ってたことが分かって、メイキング映像で逆上がりできたシーンでももう一回「あっ!!」て声あげちゃいました。実際、この子の演技は凄いですよ。表情だけのシーンも多いんですが、とても生々しい6歳の子というのが出ていて良かったです。

 アヤノ叔父さんのエピソードは、初めはまったくよく分かんなかったです。ミキサーというポップな仕事をしているのに、なんでこんな田舎の実家に同居している(帰省だったことが分かるのは、「今日が最後だから…」というセリフのあとお家から消えたことで理解しました)のか分かんなかったし、毎度橋の途中で引き返していたことにも実は気がつきませんでした。浅野さんの「刺青の男の話」をしているシーンと、寺子アキラ(中嶋朋子さん)との再会を果たしたときのふたりのグダグダに生々しいやりとりは、演技とは思えないほど自然な感じで、ホントに覗き見してしまったような気恥ずかしさを感じてしまいました。

 CMクリエイターでもある石井監督ですが、本作でもCGやアニメを映像に取り込んでいて、単なるホームドラマという感じではないです。冒頭で、ハジメの頭から電車がもこもこと出てきて、そのあと頭を貫通したままハジメが虚空を見上げているシーンが出てきますが、この画だけは生理的に受け付けませんでした(基本的に体の一部を損壊するような映像は、苦手です)。でも、あとは見ていくうちに馴染んでしまいました。シュールだけど、こんなんもアリかな、と。

 微妙に主人公たちに絡む小ネタが多すぎて、本編のストーリーにどう関わっていくのかな?と思ってたら、ほとんど意味なかった、というモノばかりで、それも本作のグダグダ感を増している要素なんですよね。でも、その小ネタ自体はおもしろいんですよ。「刺青男の話」「そば屋事件&コンビニ事件」「流星警備員」「高校のワケの分からない授業」etc.数え上げたらほんとキリがないくらい多いのです。小ネタがおいしい、というのは、CMクリエイター的なのかな、という感じがします。逆に長編映画としては、監督自体がその効果を狙ったにしても、なんかまとまり感がなくて、印象が薄い感じがします。「CMクリエイターだから長編映画はムリだ」という理屈に短絡しようという気はないのですが、石井監督の前作「鮫肌男と桃尻女」「PARTY7」は断片見ただけで生理的に受け付けないな、と思ってしまったため、実際今の段階では評価不能です。

 もしかしたら「カメオ出演?」と疑いたくなるくらい、こそっと出ている人々をいくつか挙げておきます。冒頭の転校していった彼女:相武紗季ちゃん。 幸子の通う小学校の朝礼で詩の暗誦をする教頭先生:田中星児さん。 母・美子のアニメ復帰作の上映会場の映写技師:草彅剛さん。父・ノブオの催眠療法の患者:和久井映見さん。アヤノ叔父さんのスタジオにいるCMディレクター:武田真治さん。ほかに、ホントに気がつかなかった囲碁部部長:高橋一生さん。そして、ロッテファンのみなさん。あの「よしこ(菊地凛子さん)」が出ています! 「そば屋事件」でのそば屋の店員と、アオイが転校してきた日、クラスで先生をヤジった生徒の2役で登場、いずれも特典ディスク見るまで気がつきませんでした。

●監督・原作・脚本・編集:石井克人