一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

帝都物語

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

帝都物語 [DVD]

 (1988日本)

 明治45年、実業家の渋沢栄一勝新太郎さん)が、土御門家の陰陽師の平井保昌(平幹二朗さん)や物理学者の寺田寅彦寺泉憲さん)らに帝都・東京の防衛を固める「東京改造計画」を持ちかけます。その計画の前に、妖術を使って平将門の霊を呼び覚まし、帝都壊滅を目論む謎の男・加藤保憲嶋田久作さん)が立ちはだかりました。


 物語は大正をはさんで明治45年から昭和3年にかけて、加藤の謀略に立ち向かう寺田虎彦や幸田露伴高橋幸治)ら実在の人物と、陰陽道や風水といったオカルト的な力を操る辰宮恵子(原田美枝子さん)や黒田茂丸(桂三枝さん)らの活躍を描くSF群像劇といった趣です。とにかく、実在の人物多数を含んで登場人物多すぎ、実在の史実を絡めて織り込まれたエピソード多すぎ、もう、お腹いっぱいという感じです。お腹いっぱいなんですが、クライマックスは、加藤と辰宮恵子のサイキック・バトルに収斂してしまい、東京近代化をめぐるさまざまな史実が、大いなる虚構に飲み込まれてしまうような感覚に囚われます。「あれ、これは歴史の教科書に載っていることだったっけ?それともフィクション?」といった感じに。

 まぁ、この映画は、明治末期〜昭和初頭の東京の街並みなどを復元した“美術”を大いに楽しむべきかと。路面電車やビアホールなど、見ているだけでノスタルジックな気分に浸れます。

 逆に、加藤が妖術を使うシーンなどの、おどろおどろしい画は、まぁ、ボク的にはどうでもよかったかな、という印象でした。実相寺監督の好きそうな原色の照明など、あまり好きにはなれなかったです。クライマックスで岩が割れるところなどは、むしろチャチな感じがして、失笑してしまいました。だいたい、サイキック・ウォーズなんて、見ていてもイマイチよく分かりませんし…。ただ、それ以外の特撮全般、クレイ・アニメーションの鬼の造形とか、関東大震災の再現シーンとかは、けっこう力入ってて好感持ってるんですよ。

 嶋田久作さんは、この映画の抜擢で、一躍俳優として注目されることになりました。歯並びが悪く、アゴに歯茎が収まっていない悪相、それに伴う滑舌の悪さにもかかわらず、今や数々の映画に出演されていて、ご活躍なのは周知のとおりです。すべてはこの映画の出演あっての今ですね。

●監督:実相寺昭雄 ●脚本:林海象 ●原作:荒俣宏(小説「帝都物語」)