一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

逃亡者 木島丈一郎

私的評価★★★★★★☆☆☆☆

交渉人 真下正義 プレミアム・エディション (初回限定生産) [DVD]

 (2005日本)

 2004年10月30日、子どもを人質にとった男が、東京都台東区のアパートに立てこもりました。交渉課準備室の真下正義ユースケ・サンタマリアさん)課長は、男が立てこもった部屋に電話をかけますが、犯人は電話に出ようとせず、しまいには電話のプラグを引き抜いてしまいます。仕方なく真下がハンドマイクで呼びかけようとしたそのとき、警視庁特殊捜査班(SIT)の木島丈一郎寺島進さん)が駆けつけ、真下を一喝すると部下に突入の指示を出し、ベランダから部屋に突入、あっという間に犯人を確保してしまいました。人質の吉村遼(篠田拓馬さん)は、無事解放されましたが、木島が何を尋ねても怯えたように「すみません」を繰り返すばかり。遼の両親は離婚しており、一緒に暮らす父は明日まで北海道に出張中で、母親も親権を放棄しているため迎えに来る意思がありません。木島が部下の浅尾(東根作寿英さん)に再度両親と連絡をとるよう命じたところ、警視庁捜査一課の刑事たちが現れ、台東署警部刺殺事件特捜本部の稲垣管理官(段田安則さん)の命により、遼を保護すると言って来ました。ところが遼は木島の腕をしっかと握り締め、すがるような目で拒否の構えを見せます。木島は咄嗟の判断で、刑事たちを煙に巻き、遼を連れてその場から立ち去りました。


 で、このあと稲垣管理官の電話でハンバーガーショップで待つことになった木島に、警視庁刑事部部長の町屋忠正(辻萬長さん)から「本庁の情報が漏れている。すぐにその場を立ち去り、警察署にも戻るな。できる限り逃げ続けろ」という連絡が入り、木島は逃亡者になってしまうのです。

 唐突に逃亡者になった木島ですが、まったく緊張感のない逃亡者なんですよねぇ。列車の無くなったあとの夜行の旅だから警察の追っ手が後手を踏み続けたとでもいうのか、着く駅着く駅どの県警も、そして鉄道警察隊も役立たずばっかりで、間抜け過ぎにもほどがあるというヌルい展開。追っ手の緊迫感のなさが、かなりドラマをゆるゆるにしてます。

 特捜本部の稲垣管理官とは別に動く、真下と部下の倉橋(ムロツヨシさん)の捜査も何らの邪魔もなくサクサク進んでいくようで、なんだか犯人の行動も緩すぎるとしかいいようがありません。

 結局、サスペンスじゃないんだな、この作品は。なんだかよく分からないけれど、北へ向かって旅する木島と遼の間に芽生える、世代を超えた友情を熱く語るロード・ムービーなんですね。“逃亡者”ってタイトルは、“交渉人”、“容疑者”と続いたスピンオフ企画の平仄合わせのためだけ、ハリソン・フォードトミー・リー・ジョーンズの映画を思い出しちゃあいけなかったんですね。そういえば、木島の着メロは寅さんでした。人情モノというわけだ、なるほど。

 ま、小ネタもけっこう笑わせてくれますし、木島の、ガラは悪いが意外と気配りが細かいというキャラもなかなか笑えますから、しっかり笑いましょう。あのガラの悪さで警視ですから、木島はたぶんキャリア組なんですよね。真下課長は呼び捨てですし、稲垣は同期だと言ってますから、間違いないでしょう。もしかしたら木島警視、シリーズ化するかな? キャラ的にしんどいかな?

 事件解決後、ドラマは“交渉人”のオープニングに直結していくので、“交渉人”の登場人物も出てきます。中でも木島が好意を寄せている小料理屋「笹美」の女将・鵜飼美津子(森口瑤子さん)の元で、松重豊さん扮する班長以下爆発物処理班一同が、一晩中宴会をしていたという設定には苦笑しました。事件起きたらどーすんだ、って感じです。

 ほかにも“交渉人”との関連を挙げると、オープニングで木島が乗ったレガシィがトンネル内で追い越すカエル急便の黒いワゴンは、“交渉人”のキーとなる車だし、同じくカエル急便ネタでは、“交渉人”で木島が「この時期お歳暮やらクリスマスプレゼントやらで忙しいんだ」というセリフの元は、逃亡中にヒッチハイクしたカエル急便のドライバーに聞いた話だし、青森県警の玄関には“交渉人”でコンサートの指揮をする西村雅彦さんのポスターが貼ってあるし(よく見るとその次の扉にはピンクサファイアの防犯ポスターまである!!)、木島のドカジャンの由来や、“ジャガーノート”や“ブラック・サンデー”といった映画ネタの伏線まで仕込んであり、ファンにはたまらんところでしょう。

 “交渉人”でスピンオフした時点で、テレビシリーズの湾岸署の面々が、ストーリーから事実上消えてしまいました。本庁の強権的捜査のやり方に屈せず、自分の中の正義を貫く青島刑事の視点がすっかり無くなったワケですが、本作の根っ子には、辻萬長さんと升毅さんが語る“警察の中の腐敗”を洗い出すというような視点が加わってます。この視点がもしストーリーの全面に出てしまったら、おそらく“踊る大捜査線”ではなくなってしまうと思います。“容疑者 室井慎次”は見てませんが、こちらのキャストも警察はいわゆる官僚がほとんどで、よりシビアなストーリーになっている模様です。“逃亡者”は、スピンオフのそのまたスピンオフなワケですが、木島のキャラを考えると、テレビシリーズの原点回帰を目指しているのかもしれません。“踊る大捜査線番外編 湾岸署婦警物語 初夏の交通安全スペシャル”という湾岸署舞台のスピンオフもありましたが、青島刑事=織田裕二さんが降板し、和久指導員=いかりや長介さんが亡くなった今、湾岸署に舞台は戻りそうもありません。今後“踊る大捜査線”は、どういった展開を見せるんでしょうかねぇ?

●監督:波多野貴文