一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

レディ・ジョーカー

私的評価★★★★★☆☆☆☆☆

レディ・ジョーカー [DVD]

 (2004日本)

 1月3日は、昨年の『半落ち』に続いて、WOWOWデジタルハイビジョンで東映の社会派サスペンス映画を見ました。


 業界大手の日之出ビールの城山社長(長塚京三さん)が誘拐されます。“レディ・ジョーカー”と名乗る犯人グループの5人(渡哲也さん、吉川晃司さん、大杉漣さん、吹越満さん、加藤晴彦さん)は、350万キロリットルのビールを人質に20億円を要求して城山を解放しました。やがて、市販された日之出ビールから、赤いビールが見つかり、城山たち役員は、犯人の要求を呑むことを決議します。一方、城山が解放されたあとも、まったく犯人の目撃情報すらないことで面目を潰された社長誘拐事件の特捜本部では、合田刑事(徳重聡さん)を社長の身辺警護名目で張りつけ、会社の裏取引を阻止するよう画策しました。しかし、犯人に弱みを握られている城山は、犯人の指示通り警察を欺き、会社から20億の身代金を引き出し、犯人に送るのでした。


 原作は、グリコ森永事件を題材にした高村薫さんの、壮大な同名小説なんだそうです。きっと壮大すぎて、2時間の枠に納めるのに焦点を絞りきれなかったのでしょう。とても散漫な社会派サスペンスになってます。

 この作品には、犯人5人の事情、日之出ビール会社の事情、警察組織の事情、3つのドラマの軸があるワケですが、どれも掘り下げかけて、途中で止めてしまったかのような印象を拭えません。たぶん、どれかひとつに焦点を絞ってドラマ化しても、2時間枠で相当重厚なドラマが仕上がったのではないか、そんな気がします。

 あえて作品の焦点を考えるなら、警察組織に見られるような、“既成の体制に縛られて生きることの矛盾”を見せつけることでしょうか? そういう目で見れば、警察組織内で部下の不祥事に対して自殺するしか答えを出せなかった中間管理職や、会社組織の中で行われる総会屋との癒着、採用にまつわる社会的差別の歴史、そして犯人側の社会的敗者・弱者・被差別者の行き場のない閉塞感、そんな社会的な問題となるような要素はふんだんに散りばめられてはいます。ただ、切り口が多すぎる嫌いは否めません。こういった、フツーに毎日新聞に目を通せば拾えるような事象を、新聞記事と大差ないスタンスで並べられても、何かを深く感じるところまでいかないのです。痛みが見えない映画は、痛みを共有できないと思うワケで、そのへんが、社会派を気取る映画の許せない薄っぺらさ加減なのです。しかも、事件が起きて、解決しても、誰も救われていないし、問題提起もなされない。正直、キツいです。そんな、フツーに生きていれば毎日身に沁みるように感じる虚しさを、ワザワザ2時間かけて見せられてもなぁ…というのが、ボクの正直な感想です。

 結局、配役の妙と、出演者の演技にかなりもたれかかってしまった感は否めません。渡哲也さんは、円熟の境地という落ち着いた演技で悲しい犯人役を淡々と演じきって見せ、長塚京三さんの城山社長も会社の責任者と一族の責任を負う立場という役どころを、実にうまく見せてくれています。そして何より、ちょっと中年太りでとてもロッカーとは言えなくなった吉川晃司さんの半田刑事が、かなりカッコよかったのです。ま、演技を楽しむ分には、かなりよい作品だったとは思うし、初見なら、サスペンス度も多少味わえてイイでしょう。でも、2回目を見る気になるか、ちょっと分かりません。でも、半田刑事見たさに、また見るんだろうな…。かなりキレてますよ。見ていてゾクゾクしてきます。

 ところで、“レディ・ジョーカー”の意味が、あまり語られていませんでした。ま、昨今の映像作品は、テレビの2時間サスペンスなんかの影響か、『説明しすぎ』ということもあるので、何もかも説明してくれなくてもよいとは思うのですが、結局犯人5人の事情はそれぞれ断片的に語られる会話の端々から類推するしかないワケで、犯行に至る動機付けが、この映画だけ見ても分からない人も出てくるんですよね。冒頭で、大杉漣さんの知的障碍を持つ娘が“レディ”と呼ばれていることは分かるのですが、何ゆえ、犯人たちは、“レディ・ジョーカー”を名乗るのでしょうか? 渡さんが「レディはババ(=ジョーカー)じゃない!」と言うセリフがあるから、本来は単なる寄せ集めの5人の中に“レディ”に対する何かしら特別な感情でもあるんじゃないか、と勘繰ってみたくはなりますが、結局分からないんですよねぇ…。

 救われない映画の最後に、それまで障碍のために表情を見せなかったレディが、かすかに微笑むシーンは、監督の優しさの表れでしょうか。ありのままを受け入れ、淡々と生きていくしかないのだ、という思いです。

●監督:平山秀幸 ●原作:高村薫(小説「レディ・ジョーカー」)