一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

恐怖劇場アンバランス第6話「地方紙を買う女」

私的評価★★★★★★★☆☆☆

DVD恐怖劇場アンバランス Vol.3

 (1969日本)

 地方紙・甲信新聞の編集局に「杉本隆治(井川比佐志さん)の連載小説が面白そうなので、新聞を購読したい」という手紙が届いた。差出人は東京在住の女で、潮田芳子(夏圭子さん)とあった。しかし、1ヶ月ほどして、芳子は「小説が面白くなくなったので購読を中止したい」と手紙で告げてきた。不審に思った杉本は、懇意にしているルポライター山本圭さん)とともに芳子の居場所を突き止め、彼女に会ったのだが…。


 原作を読んだのは、中学生のころ。新潮文庫から出ていた「傑作短編集(五)張込み」の中の一編で、中学生当時でも面白い小説だと思ったものです。ちなみにこの短編集の収録作品は、「張込み」、「顔」、「声」、「地方紙を買う女」、「鬼畜」、「一年半待て」、「投影」、「カルネアデスの舟板」の8作品で、傑作というだけあって、短編集ながら映像化された作品も多く、私の知る限りでも「張込み」、「声」、「鬼畜」、「一年半待て」と本作の5作品がテレビドラマあるいは映画化されています。中学生時代は、松本清張さんの濃密なサスペンスはちょっとヘビィで、8作品の中では唯一読後感が明るい印象だった「投影」だけが当時のお気に入り作品だったことを思い出します。歳を重ねた今は、それなりにそれぞれの作品を受け止められるだけのモノができた、というか、それだけスレてしまったというか、まぁ、そんな感慨を覚えるところです。

 原作も傑作でしたが、映像化された本作も、すばらしい出来だと思います。活字との違いで、冒頭の映像でいきなりネタは割れてしまうようなところはあるのですが、推理サスペンスではなく、あくまで「恐怖劇場アンバランス」な作品ですから、人間の心の闇に巣食う正体不明の影に怯えるようなサスペンスを味わうのが主題かと。

 クライマックスに3人で旅行に出かけるくだりは、昨今の2時間サスペンスのクライマックスと似た展開にも見えるワケですが、とんでもない。安易な解決など待っていないのだよ、と言わんばかりに、心臓をギュッとつかまれるかのようなサスペンスが盛り上がり、破滅の予感に苛まれながら、暗い水がたゆたうような不安に満ちたエンディングへとなだれ込むのです。

 しかし、最後の杉本とルポライターとのやりとりは、微妙ですね。芳子が主人公ではなく、杉本が主人公であることは分かっていても、杉本が人気作家としての地位を追いやられていく過程の印象が極めて薄かったため、最後に杉本がぶちまけるくだりが、蛇足めいてしまったように、私には思えました。

 ついでに。このシリーズの製作は1969年ですが、放映は1973年だそうです。

●監督:森川時久 ●脚本:小山内美江子 ●原作:松本清張(小説「地方紙を買う女」)