一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

銀のエンゼル

私的評価★★★★★★★☆☆☆

銀のエンゼル (日活から再発売) [DVD]

 (2004日本)

 北海道のとある田舎町、広大な農地を横断する道路沿いにポツンと立つコンビニ。町の人々に請われて農業をやめてコンビニを始めたオーナーの北島昇一(小日向文世さん)でしたが、肝心の店の経営は妻で店長の佐和子(浅田美代子さん)に任せっきり。ついでに大学進学を目指す一人娘の由希(佐藤めぐみさん)のことも、妻に任せっきりで、ぼんやりと気の抜けたような毎日を送っていました。ところが、初冬のある日のこと、佐和子が交通事故で骨折し、全治3ヶ月の入院を余儀なくされ、昇一は大慌て。季節バイトの佐藤(西島秀俊さん)と慣れないコンビニの夜勤に立ち、何も買わずに携帯で話しまくる女や、店の前でダンスの練習に励む5人組の高校生など、一癖も二癖もある深夜の客に困惑します。そして何より困ったのが、最近ロクに口も利いていなかった娘と向き合わねばならなくなったこと。由希が東京の大学へ進学したいと思っていることを、バイトの佐藤でさえ知っており、自分だけが知らなかったことに愕然として狼狽えてしまいました。一日も早く妻に戻ってきてほしいと願いながら病院へ見舞いに行く昇一でしたが、佐和子は「病院から戻っても、コンビニには戻らないから覚悟しておいて」と冷たく突き放します。そして、由希が突然、早朝のレジに立つ昇一に向かって、家出を宣言して東京に向かう列車に乗ってしまいました…。


 コンビニを舞台として、ダメおやじと娘の関係を軸に、集まってくる客の人間模様を織り交ぜながら描くちょっとイイ話です。昇一の狼狽をよそに、入院先の病院でスッカリくつろぎ、仲間と談笑する佐和子、夫婦の姿をうまく対比させていて、おもしろいな、と。

 何気に映し出される北海道の景色が素晴らしい。ガソリンスタンドの屋根から見下ろす広大な大地。見渡す限り一面の農場を駆け抜ける一本の道、ポツンと立つコンビニ。雪で線路以外真っ白な駅のホーム。吹雪の夜のシバれるような冷たい感じ。ああ、北海道を舞台にしなきゃ、この物語は始まらなかったんだな、という錯覚に囚われます。ま、どこが舞台でも良かったのかもしれませんが、冬の北海道で凍った心が温もりを取り戻していく、そういった感じがイイのだと思います。

 『森永チョコボールの“銀のエンゼル”を5枚集めると、おもちゃの缶詰がもらえる』という話が、あらすじの中に全く出てきませんね。う〜ん、この映画、銀のエンゼルってタイトルでなくても良かったような…ま、いっか。毎晩コンビニにチョコボールを買いに来るバツイチ子持ちのスナックのママ・あけみ(山口もえさん)が、『5枚集めると人生が変わるかもしれない』と言いながら、店員に買う品をチョイスさせようとすると、佐藤が『なら、なおさら自分で決めた方が、外れても後悔しないでしょう』と勧めるエピソードに使われるんですけど、あまりストーリーに関係ないような…。10年前、高校生だったあけみと久々に再会した昇一の、意味ありげな態度、いったい何なんでしょう。ロマンスを想像させながら、結局何もなし。なんだぁ〜?

 昇一が則を超えられない性分で、客との対応でも娘との関係でもうまくこなせないところを、佐藤がレジの中で酒を飲むことを勧め、『規則だけがすべてじゃないですよ』と言って、昇一の背中を押すところから、物語は佳境に入ります。クライマックスは、あざといネタですが、ハラハラドキドキしますよ。

 昇一の親友のガソリンスタンドの社長、村上ショージさんに似てるなぁ〜と思ってたら、本人でした。大阪弁ぢゃないんだモン。ゆったりとした北海道訛りの喋りで、まったく驚かされました。俳優・村上ショージ、イケてます。あと、コンビニに荷を下ろすトラックの運転手・大泉洋さん、ボクは見たことないんですけど、“水曜どうでしょう”とかいう北海道ローカルの深夜バラエティ番組で、監督の鈴井さんと全国区に出たんですか? イイ味出してますね。でも、なんと言っても西島秀俊さん。『帰郷』で初めて役者さんとして意識したんですけど、飄々とした感じがイイですね。本人が納得されるかどうかは知りませんが、森本レオさんのあとは、彼のナレが耳に心地よいんではないかと(実際、ナレだけやったことがあると、何かで読みましたが)。一見、癒し系に見えますが、冷酷な役もけっこうイケるんではないかと、今後注目してみようと思います。

 特別な感動はないですが、観終わったあと、スッキリ感のある作品です。コンビニ客のあざとい小ネタも笑えます。

●監督・原案:鈴井貴之