一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

悪魔が来りて笛を吹く

私的評価★★★★★★★★☆☆

悪魔が来りて笛を吹く【リマスター版】 [DVD]

 (1977日本)

 宝石店『天銀堂』で従業員一同が毒殺されるというショッキングな強盗殺人事件が発生し、犯人のモンタージュが新聞に公表されると、椿英輔元子爵(江原真二郎)の屋敷は騒然としました。やがて警察の任意の事情聴取を受けた椿英輔は、『これ以上の屈辱には耐えられない』という遺書を残し失踪すると、青酸カリを呷って自殺を遂げます。ところが、生きている椿英輔の姿を何度も目撃した妻のあき子夫人が、『夫が、失踪前に悪し様に扱っていた自分への恨みを晴らすためにやってくる』という妄想に憑かれてしまいました。娘の椿美禰子(檀ふみさん)の依頼を受け、英輔の死の真相を調査することになった金田一耕助古谷一行さん)は、椿家で行われることになった砂占いの席に招かれます。その夜、占いの最中に不意に訪れた停電のあと、砂の表面に現れた火炎の文様に驚き憔悴した玉虫元伯爵(加藤嘉さん)が、深夜に殺害されて…果たして、椿英輔は自殺を装い、妻に復讐を遂げるために戻って来たのでしょうか…?


 原作を読んだとき、椿英輔が作曲したフルート曲『悪魔が来りて笛を吹く』の持つ陰気なメロディーを想像しました。原作全編を通じて受ける陰鬱な印象は、この曲の出来栄えに大いにかかっているといえ、その点で、本作のフルート曲には感心しきり、原作のイメージを実にうまく引き出していると思いました。

 ストーリーもほとんど原作通りの進行でしたが、終盤は若干オリジナリティを加えています。どうかなぁ…ネタバレすれすれですが、最終回の前半に首を傾げてしまう演出があります。なんで急に一気にキャラを変えるような行動をしているの?といった印象ですが、気になる方は、ご自分で確認なさってください。あぁ、ギリギリここまでしか書けません。

 悪魔って、何のことでしょう?---それは、切ない、悲しい存在。見終わって、救いようのない結末に、なんとも名状しがたい胸騒ぎを覚えることでしょう。誰も救われない、それでもこんな結末しかないんだな、と諦めるしかない。しかし、その結末に涙することもできない…この涙腺の緩いボクでさえ(苦笑)…厳しいけれど、受け止めるしかない。ミステリーとしては好きなんだけれど、このお話の顛末は、やるせなさいっぱいです。

 それにしても、横溝先生は、この手の因果モノをプロットの根っ子に据えるお話が多いですなぁ…。

 どうしようもない結末に居たたまれなくなったのか、日和警部と金田一のトンデモな掛け合いでチャンチャンと終わってしまいました。しかも、最後に画面の端に出たタイトルは『悪魔は来りて笛を吹く』って、タイトル微妙に変わってるし。そんなアホな…。

 椿あき子役の草笛光子さん、市川映画の金田一シリーズでは騒々しいオバサンの役が毎回板に付いていて、そういう役柄の印象が強かったですが、本作のように周りに流されて生きるだけのだらしない女の役も案外イケてました。女優さんて怖いですよね。美禰子役の檀ふみさんは、さっぱり魅力がなかったです。役どころが脇というか端役に近いというのもありましたが、菊江役の中山麻里さんや新宮華子役の岩崎加根子さん辺りと比べても、存在感の薄さが気になりました。あと、女中のお種役の白石幸子さんという女優さんがとても気になったのですが、他の出演作の情報が分かりません。近年のドラマで見かけた顔のような気がするのですが、女優の娘さんとかいらっしゃるでしょうか?

●監督:鈴木英夫 ●原作:横溝正史(小説「悪魔が来りて笛を吹く」)