一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

夜歩く

私的評価★★★★★★★★☆☆

夜歩く【リマスター版】 [DVD]

 (1978日本)

 太平洋戦争のとき同じ部隊で共に生き延びた戦友の屋代寅太(谷隼人さん)の消息を訪ねて、東京の古神邸を訪れた金田一耕助古谷一行さん)は、いきなり屋敷内で起こった騒ぎに巻き込まれました。古神家に同居する番頭の仙石鉄之進(伊藤雄之助さん)が、日本刀を振りかざしながら、前衛画家の蜂屋小市(岸田森さん)を追い回していたのです。蜂屋は古神の娘・八千代(范文雀さん)の婚約者として古神家に居座っていましたが、先代が亡くなって以降、先代の後妻のお柳(南風洋子さん)と懇ろになり、古神の財産管理を一手に引き受けていた鉄之進は、自分の息子の直記(村井国夫さん)を八千代と結婚させようと目論んでいたのでした。ところが、八千代を巡っては、古神の当主で彼女の兄の守衛(もりえ)(清水紘治さん)も道ならぬ横恋慕をしていました。また、先代の弟で、居候の古神四方太(菅貫太郎さん)が、お柳にちょっかいを出しながら、古神の財産を巡って鉄之進を牽制しており、一つ屋根の下で、複雑な愛憎関係が一触即発の火種をくすぶらせていたのです。そんな古神邸で、屋代は学費を世話してくれた仙石の恩に報いるため、下働きをしていたのでした。その夜、寝つきの悪かった金田一は、八千代が薄手のネグリジェのまま庭を徘徊するのを目撃し、彼女のそばに近づくと、話しかけました。しかし、彼女は金田一の呼びかけには無反応のまま、歩き続けるのでした。そして翌日、今は使われていない離れに、頭部と手首を切断された男の死体が見つかり、蜂屋と守衛の姿が見えなくなっていることが分かりました。当初、遺体の右太腿の銃創から、遺体は昨年9月にキャバレーで謎の女に撃たれたことのある蜂屋であり、行方の分からなくなった守衛が殺害したものと思われていました。ところが、岡山の古神の実家にいた守衛の乳母の証言で、守衛も蜂屋の2ヶ月前に暴発事故で右太腿に銃創を負っていたことが分かり…。


 原作を読んでなく、放映当時見ていないモノということで買っていたのですが、購入して半年しないうちにリマスター版がいくつか発売され、本作もリマスター版が出ています。どれくらいきれいになったのか、ちょっと興味のあるところですが、特に気になるコマごとの色ずれのような部分は、東宝の古い映画のリマスターでも案外解消されていないこともあるので、とりあえず買い替える愚は避けようと思います。

 本作は横溝正史シリーズの第2弾として、1978年に放映された9作品のうちのひとつです。前年のシリーズとともにエンディング・テーマを唄う茶木みやこさんの物憂げで物悲しい歌声が、中学生だった少年の心に、強烈な印象を残してくれたモンです。しかし、78年のシリーズは、受験生になったせいもあったのか、1作目の八つ墓村くらいしか見た記憶がないんですよね。それも全5話最後まで見たかどうか…2作目以降は全く記憶にありませんので、見ていないと思います。放映時間もおそらく22時台と遅かったんでしょうね。第1シリーズでも、後半の3作(『悪魔が来りて笛を吹く』『獄門島』『悪魔の手毬唄』)だけだし、きっと見た4作は、原作を読んでいたから見ようという気になった、といったところだったのかもしれません。

 テレビの横溝正史シリーズは、暗めのフィルム映像と音楽で、原作の持つ『おどろおどろしさ』みたいなイメージを、うまく引き出せていると思います。今も毎年いろんな俳優さんが、金田一耕助役に挑戦し、いろんな監督さんがテレビドラマに撮っていますが、どうもビデオ素材の映像では、いまいちネットリした厭らしさが伝わって来ず、物足りなさを感じます。そういった意味では、もはや2度と現れない極上のエンターテインメント・シリーズだったのかもしれませんネ。


 作品のことに少し触れましょう。

 ネタバレに気をつけて書くと、あまり後半に触れられないのですが、全3話のうち、第3話がややストーリー展開を早めたのかな、という気がしました。第2話の最後の最後に新たな事件が起きたせいもあるかも知れませんが、第3話の冒頭で新たな死体発見のいきさつが語られ、その後の展開が少々性急だった印象を受けたのです。が、ストーリー自体は面白かったですし、今見ても八千代が『夜歩く』奇行の描き方もゾクゾクくるものがありますし、満足度は高かったです。もちろん、役者さんの演技もしっとりと画面に馴染んでいて、素晴らしい。この辺りは、最近のドラマで不満な部分なんですよね。役者が本業でないタレントが、しばしば画面になじまず、ドラマの雰囲気を台無しにしてしまっている作品が多いと感じていますので。

 おっと、大切なことを忘れてはいけません。このシリーズは、岡山弁丸出しの長門勇さん演じる日和警部が、ドラマ全体の雰囲気を和らげてくれていることを。日和警部って、原作には登場しないキャラですよね? 東京の事件でも岡山の事件でも出てくるんですけど、原作じゃあ、東京警視庁は等々力警部だし、岡山県警は磯川警部だと思うのですが、どなたか日和警部の出典をご存知の方がいらっしゃいましたらTBお願いします。

●監督:水野直樹 ●原作:横溝正史(小説「夜歩く」)

《リマスター版は、ボクが買ったあと出ました》

夜歩く [DVD]

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