一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

女王蜂

私的評価★★★★★★★☆☆☆

女王蜂【リマスター版】 [DVD]

 (1978日本)

 伊豆沖に浮かぶ月琴島の崖から、白いユリの花束を海に投げる果敢なげな女性---大道寺智子(片平なぎささん)が振り返ると、顔に大きな傷を負った見慣れぬ老人が立っていました。老人は20年前に崖から転落事故で亡くなった智子の父が、実は殺されたのだと告げます。そのころ金田一耕助古谷一行さん)は、智子の義父の速水欣造(神山繁さん)の依頼で、月琴島行きのフェリーに同乗していました。智子を東京の家に迎え入れるため、速水は月琴島に向かっていたのですが、『智子を東京に呼び寄せてはならない。彼女は母の血を受け継いでおり、慕い寄る男を片っ端から失う運命である。彼女は女王蜂である。』という内容の新聞の切り抜きで作られた警告状を受け取っていたため、金田一に同行を求めたのです。果たして、月琴島の大道寺家では、島の若衆で智子に密かに心を寄せていた遊佐三郎(赤塚真人さん)が、時計台の屋根裏部屋で、頭部を割られて亡くなる事件が発生してしまいました。そして、智子に言い寄る男たちが、次々と悲惨な死を遂げる事件が相次ぎ…彼女は本当に女王蜂なのでしょうか? そして、20年前の智子の父の死の真相は?


 劇場版『女王蜂』とは、だいぶ設定が異なりますが、原作に近いのでしょうかね? その辺も実は原作を読んでないので比較できないんですが、1時間枠ドラマの連続3話分ですから、けっこう細かく描けている部分もあると思います。劇場版と一番違うなと思ったのは、智子の描き方でしょうね。劇場版のレビューでも書きましたが、智子役の中井貴恵さんが新人の抜擢であったことからも、劇場版では、智子の影が薄く、ましてや智子が女王蜂であるという印象はさっぱり感じられない作品になってました。一方、本作は、智子を主役としてストーリーが構成されていると言え、智子の果敢なげな美しさが、とても印象に残る演出になっています。智子の周りで次々と男たちが亡くなる事件からも、確かに『智子が女王蜂である』というイメージを抱かせるに足る表現ができていると思いました。

 ただ、智子は断然魅力的だったのですが、犯人の描き方については、劇場版の方が、はるかに魅力的でした。劇場版については、犯人に対して、いくばくかのシンパシーを感じる部分がありましたが、本作の顛末では、犯人は身勝手なただの殺人鬼でしかなくなっています。金田一の解決編で語られるだけの真相では、いかにも人物描写が物足りない。せっかくおいしそうなネタを振りまいていたのに、犯人の心情を匂わせるような伏線を張り損ねたようです。ネタバレとの兼ね合いで、うまくシナリオに落とせなったのかもしれませんが、その辺りは脚本家の腕の見せ所じゃないのかなぁ…。

 家庭教師の神尾秀子役も劇場版岸恵子さんの方が、良かったかなぁ。いえ、岸恵子さんも、決して好きな女優さんというワケでもないんですけど…岡田茉莉子さんは、顔が好きじゃないというのもあり、ちょっとフケ方も気になり、といった感じでして。何より、作中の影が薄めだったのに、最後だけ大仕事やってくれたりして、という演出が一番気に入らない点だったんですがね。

 いろいろケチをつけましたが、横溝正史シリーズの作品としてのスタンダードは持ち合わせていると思いますし、おそらく2時間サスペンスに慣れている最近の視聴者には、分かりやすい作品になっているんではないかと思います。

●監督:富本壮吉 ●原作:横溝正史(小説「女王蜂」)