一応、邦画劇場

過去の自分、現在の自分、そして未来の自分に向き合う映画鑑賞

三つ首塔

私的評価★★★★★★★★★☆

三つ首塔【リマスター版】 [DVD]

 (1977日本)

 大学教授・上杉誠也(佐分利信さん)の還暦祝いの行われたホテルで、パーティの余興に佐竹建彦(米倉斉加年さん)が呼んだアクロバット・ダンサーの女性が、大勢の客の目前で悶絶死をとげました。続いてホテルの階段の踊り場で若い男の死体が見つかり、上杉の義理の姪の宮本音禰(真野響子さん)が落としたクチナシの花の髪飾りが現場で発見されます。警視庁捜査1課の日和警部(長門勇さん)が捜査に出張って来ると、さらに3人目の犠牲者として、金田一耕助古谷一行さん)が借金を申し入れていた同業者の男性の死体が発見されました。階段で殺されていた男は腕の刺青から、殺された探偵に上杉が行方を調べさせていた高頭俊作であることが分かりました。実は、音禰の母方の曽祖父の弟の佐竹玄蔵老人が、10億円の遺産を音禰に相続させる遺言状を作成していたのですが、その内容は、音禰が行方不明の高頭俊作と結婚することを条件としたものだったのです。高頭俊作が亡くなったことで、第2の条件を公表するため、佐竹老人の弁護士が、相続者全員を集めることになり、7人の相続者とその関係者が一同に会しました。果たして第2の条件は、佐竹老人が亡くなった時点で、10億円の財産を相続者全員に均等に分割するというものでした。そして、高頭俊作のみならず、アクロバット・ダンサーの女性までが相続者のひとりだったことが判明し、7人の相続者の間に不穏な空気が張り詰めることとなります。佐竹老人が亡くなるまでに相続者がひとりになれば、10億円を独り占めできる…。弁護士は最後に、『三つ首塔を知っているか?』と一同に尋ねますが、誰も返事をしませんでした。


 音禰は、高頭五郎と名乗る謎の男(黒沢年男さん)に無理やり体を奪われ、上杉に知られたくない秘密を作ってしまいます。そして変装して五郎に連れられて相続者の元を訪ね歩くうち、行く先々で死体が増えてゆき、どんどん警察の嫌疑の渦中にはまってしまいます。ついには五郎の潜伏先のひとつに身を隠す羽目に…典型的な巻き込まれ型のサスペンスですが、どうも、ミステリーとしては不可解な点がいくつかあり、ちょっと気になりました。前半で犯人の予想はついたのですが、その人物が犯人だとすると、不可能と思える事件がいくつもある気がします。で、もうひとり関係しそうな人物がいるんですが、その人物の犯行も含まれるとすると、その辺はまったく金田一の事件解明に説明されていないワケで…ま、とりあえず、殺人事件多すぎ。

 で、ミステリーとしては?なところもあるんですが、ドラマとしてはたいへん見応えを感じました。戦後まもなくの昭和の、夜の闇に息づくエログロな風俗の雰囲気なんか、今のビデオ素材のテレビドラマじゃあピンと来ないだろうなと思えるほど濃密です。それゆえ、お子ちゃまにはお見せできません(爆)。

 何より真野響子さんが、ホンマよかった…。良家の子女だった音禰が、五郎と関わったことでどんどん俗な世界にはまっていく過程が丹念に描かれていますが、おそらく、男性にとってはどうしようもないほど悩ましい設定だと思うんですよねぇ。そんな役柄をキッチリこなしていて、見ているオッサン連中は間違いなく音禰=真野響子さんにハマッてまうこと疑いないしといったところでしょう。もちろん、その他の配役もバッチリ。上杉役の佐分利信さんなんか、これ以上のハマリ役ないだろうと思えますし、黒沢年男さんも、音禰を俗な世界に引きずり込むのに十分すぎるほどにワイルドな魅力を感じました。あ、ついでに。怪しげなSMショーを行う佐竹由香利(大関優子さん)、えらく美人だよなぁ、でも、見たことある顔つきなんだよなぁ、と思ってたら、現・佳那晃子さんだったのですね。

 脱線しますが、真野響子さんと真野あずささんは、姉妹です。妹さんは2時間サスペンスでよく見かけますよね。橋爪功さんと時刻表トリックあばく弁護士かなんかの役で。お姉さんの方は最近芸能活動しているのかどうか分かりませんが、ボクはこのふたりの区別がつきません。ふたり一緒に並んでいれば区別できるかもしれませんが、それぞれ単独でドラマとかグラビアとかで見たら、たぶんどっちか答えられないです。男性では柏原崇さんと柏原収史さんの兄弟が区別できないんです。それぞれの兄弟姉妹、いずれも年はある程度離れてらっしゃるんですけどねぇ…。

 閑話休題---本作、金田一耕助の活躍は、ほとんどありません。読んでないんですが、たぶん、原作が主人公目線で語られるストーリーだからなのでしょう。八つ墓村もそういう作品ですネ。しかし、最後においしいところは持っていくんですよね。ネタバレなのでこれ以上は書きません。

 巻き込まれ型サスペンスは、最後はハッピーエンドだと思うんですが、本作もボク的にはハッピーだったように思います。横溝作品にしては珍しく、観終わったあとに残るやるせない気持ちが、ほとんどありませんでした。

 今月6作目。なんだか7月は金田一耕助強化月間だったみたいですが…そろそろ邦画を見たいな、と。

●監督:出目昌伸 ●原作:横溝正史(小説「三つ首塔」)